聖書の探求(305b) サムエル記第一 29章 ペリシテ人の出陣(ダビデ参加)、ペリシテ人のダビデ参加の拒否

ペリシテ軍(赤)とイスラエル軍(青)の進軍の様子


ペリシテ軍がイスラエル軍と戦うために軍隊を召集した時、ダビデとその部下たちはガテの王アキシュの軍隊の一部として組み込まれていました。ダビデたちはアキシュの領土内に駐留していたのです。しかし主の取り計らいにより、イスラエルとの戦いに参加しないことになったのです。それもペリシテ人の中からの意見によって不参加になったことにより、ダビデに対するアキシュの不信感は生じなかったのです。また神の民イスラエルとサウル王に刃を向けることもしなくてすんだのです。主の導きに従って行くなら、主はすべてを善きにしてくださることが分かります。

29章の分解

1~2節、ペリシテ人の出陣(ダビデ参加)
3~5節、ペリシテ人のダビデ参加の拒否
6~10節、アキシュのダビデ説得
11節、ダビデの退去

1~2節、ペリシテ人の出陣(ダビデ参加)

1節、28章4節では、ペリシテ人とイスラエル人はシュネムとギルボアで対峙していましたが、ここではペリシテ人は全軍をアフェクに集結させています。

Ⅰサム29:1 さて、ペリシテ人は全軍をアフェクに集結し、イスラエル人はイズレエルにある泉のほとりに陣を敷いた。

アフェクはパレスチナの北東地域とエジプトを結ぶ幹線道路上にあり、シュネムやメギドの平野を攻めるには都合の良い基地となっていたのです。アキシュはここから全軍で一気にイスラエルの領土を襲撃しようとしたのです。
イスラエル軍はギルボアからすぐ近くのイズレエルにある泉のほとりに陣を移しています。

2節、ペリシテ人の領主たちは百人隊、千人隊を組んで進んでいました。

Ⅰサム 29:2 ペリシテ人の領主たちは、百人隊、あるいは千人隊を率いて進み、ダビデとその部下は、アキシュといっしょに、そのあとに続いた。

ダビデたちはアキシュの護衛に任命されていたので(28:2)、アキシュと一緒に「そのあとに続いた。」これはダビデが後方の守りの役目を果たしていたことを言っています。

3~5節、ペリシテ人のダビデ参加の拒否

3節、ペリシテ人の領主たちにとっては、自分たちの一番うしろにヘブル人のダビデの一群がいることは、不安でならなかったでしょう。

Ⅰサム 29:3 すると、ペリシテ人の首長たちは言った。「このヘブル人は何者ですか。」アキシュはペリシテ人の首長たちに言った。「確かにこれは、イスラエルの王サウルの家来ダビデであるが、この一、二年、私のところにいて、彼が私のところに落ちのびて来て以来、今日まで、私は彼に何のあやまちも見つけなかった。」

彼らはアキシュにペリシテ軍の中にヘブル人の兵士が混ざっていることに異議を申し立てています。万一、寝返りを打ったら、戦意がそがれてしまい、大敗北の原因になってしまう危険があるからです。

アキシュはダビデの忠誠は「この一、二年、私のところにいて、彼が私のところに落ちのびて来て以来、今日まで、私は彼に何のあやまちも見つけなかった。」と言って、強く、断言して保証しました。「この一、二年」は、27章7節を見ると、「一年四か月」です。

4節、しかしペリシテ人の首長たちはアキシュに対して腹を立てています。

Ⅰサム 29:4 しかし、ペリシテ人の首長たちはアキシュに対して腹を立てた。ペリシテ人の首長たちは彼に言った。「この男を帰らせてください。あなたが指定した場所に帰し、私たちといっしょに戦いに行かせないでください。戦いの最中に、私たちを裏切るといけませんから。この男は、どんなことをして、主君の好意を得ようとするでしょうか。ここにいる人々の首を使わないでしょうか。

アキシュに対する首長たちのこの態度を見ると、各首長たちの権力は相当強かったことを表わしています。アキシュがダビデを保証しても、首長たちはダビデを信用することができなかったのです。逃亡中のダビデはサウル王と和解し、王の好意を受けるためにペリシテ人の首長たちの首を取って使うに違いないと考えたのです。彼らがそのように考えたとしても少しも不思議ではありません。それでダビデの一隊を彼らの居住地に帰すようにアキシュに求めています。ペリシテ人の首長たちのこの強い異議申し立てによって、ダビデはイスラエル軍とも、サウルとも戦わなくてすむことになったのです。ここにも主の奇しい導きが見られます。

5節は、18章7節のイスラエルの女たちが歌っていた歌ですが、21章11節でも、そしてここでも、ペリシテ人の首長たちに使われています。

Ⅰサム 29:5 この男は、みなが踊りながら、『サウルは千を打ち、ダビデは万を打った』と言って歌っていたダビデではありませんか。」

それほどに、ダビデの戦士としての評判は、近隣諸国にまで知れ渡っていたのです。

6~10節、アキシュのダビデ説得

アキシュはダビデを信じ切っています。

Ⅰサム 29:6 そこでアキシュはダビデを呼んで言った。「【主】は生きておられる。あなたは正しい人だ。私は、あなたに陣営で、私と行動を共にしてもらいたかった。あなたが私のところに来てから今日まで、私はあなたに何の悪いところも見つけなかったのだから。しかし、あの領主たちは、あなたを良いと思っていない。
29:7 だから今のところ、穏やかに帰ってくれ。ペリシテ人の領主たちの、気に入らないことはしないでくれ。」

「主(この主はヤーウェのことです。)は生きておられる。あなたは正しい人だ。私は、あなたに陣営で、私と行動を共にしてもらいたかった。あなたが私のところに来てから今日まで、私はあなたに何の悪いところも見つけなかったのだから。」(6節)

「私は、あなたが神の使いのように正しいということを知っている。」(9節)

Ⅰサム 29:9 アキシュはダビデに答えて言った。「私は、あなたが神の使いのように正しいということを知っている。だが、ペリシテ人の首長たちが、『彼はわれわれといっしょに戦いに行ってはならない』と言ったのだ。

ここで使っている「神」は、ヤーウェではなく、一般的な表現の「ハ・エロヒム」です。
ダビデは、サウルにはねたまれ、憎まれ、命まで狙われたのに、敵のペリシテ人の王アキシュからは強い信頼を受けたのです。クリスチャンが未信者の人々から、これほどの信頼を受けるようになったら、まわりの人々は救われるでしょう。

そしてアキシュは他の領主たちがダビデのことを良く思っていないことを説明して、「今のところ、穏かに帰ってくれ。ペリシテ人の領主たちの、気に入らないことはしないでくれ。」(7節)とダビデに頼んでいます。アキシュはこの大きな戦いを前にして、ダビデのことでペリシテ人の間に内輪もめが起きないようにと心配したのです。

8節、ダビデはアキシュからこの話を聞いた時、内心、主の導きと信じて喜んだでしょう。しかしアキシュに向かっては抗議するように答えています。

Ⅰサム 29:8 ダビデはアキシュに言った。「私が何をしたというのでしょうか。私があなたに仕えた日から今日まで、このしもべに何か、あやまちでもあったのでしょうか。王さまの敵と戦うために私が出陣できないとは。」

11節、しかしダビデは素直にアキシュの言葉に従って、部下たちを連れて、翌朝早く、ペリシテ人の自分たちの宿泊地に引き返しています。

Ⅰサム 29:11 そこで、ダビデとその部下は、翌朝早く、ペリシテ人の地へ帰って行った。ペリシテ人はイズレエルへ上って行った。

ペリシテ人たちはイスラエル軍が陣取っているイズレエルに上って行ったのです。

(まなべあきら 2009.8.1)
(聖書箇所は【新改訳改訂第3版】より)


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