聖書の探求(340) 列王記第一 5章 外国との同盟、建築、貿易(通商)、ソロモンの神殿建築着手

フランスの画家 Gustave Doré(1832-1883)による「Cutting down cedars for the construction of the Temple(神殿建設のための杉の木の伐採)」(Wikimedia Commonsより)


5章から7章のテーマは、ソロモンの神殿建築に向けられています。ソロモンは多くの事業を行ないましたが、その規模の壮大さとその精巧さ、その美しさと重要性は神殿のほかにはありません。そのためにソロモンは、近隣の貿易民族と同盟を結び、通商の範囲を拡張し、ソロモンとフェニキヤ人(ツロ)の王ヒラムの船舶は紅海を経て、遠くインド洋にまで至り、西は地中海を通ってタルシシュ(スペイン)に達し、これによって金銀、象牙、びゃくだん、珍しい動物、さる、くじゃくなどを輸入したのです(歴代誌第二 9:10,21)。これらはすべて神殿建設の準備だったのです。

エルサレムにある歴史博物館の展示資料より


ここで、ソロモンの外国との同盟、建築事業、貿易(通商)について、まとめておきましょう。

Ⅰ、外国との同盟(列王記第一 3:1、5:1~18)

この外国との同盟は、平和(安全)と繁栄のため

1、エジプトとの同盟(南方)

エジプトは既に、その最も栄光に満ちた時代は過ぎていて、その勢力は傾きつつありましたが、それでも国家として秩序と、建築技術と軍事的装備は、イスラエルの模範だったのです。
列王記第一 3章1節のエジプトとの同盟がソロモンの外交の最初の行動でした。この同盟の内容は、ソロモンとエジプトの王女との結婚でした。これは、イスラエルがこれまでのへブル的伝統から遊離していくことを意味しており、エジプトにとっても、エジプトの女性を外国人と結婚させることは新奇なことだったのです。
この同盟を結んだ理由は、この結婚によって、危険な潜在的敵国を除くという、防衛上の第一級の政策だったのです。

2、フェニキヤとの同盟(北方)

フェニキヤはイゼベルの出生地であり、アルファベットの発生地でもあります。ですから、この同盟は文化面から言えば、アルファベットを用いた文化が広がることを暗示しており、宗教的に見れば、イスラエルにフェニキヤの偶像が侵入して来ることを示しています。
ソロモンの前に、既にダビデがフェニキヤ王ヒラム一世と強固な友好関係を打ち立てていました。その友好関係を受け継いだヒラム一世とソロモンとは同族意識を持っていたと言われています。

5章12節の二人の同盟の契約は、神と神との契約を意味する言葉です。これはイスラエルの神ヤーウェをツロの神と同等にすることを意味するものです。この関係が強力であればあるほど平和は保たれているように見えますが、イスラエルが将来、フェニキヤの偶像礼拝に陥ることを色濃く暗示しています。
古い伝承によりますと、二人の友情は、ソロモンがヒラムの娘と結婚することによって、一層ゆるぎないものになったと言われています。

(両者の共通の利益)
整然とした計画に基づく建設による利益、建築物の造営、政治的安定、経済的発展
(ヒラムの利益)
パレスチナに穀物、果物、油、ぶどう酒を求めていた。

(ソロモンの利益)
建築工事に必要な練達した工人と資材の入手

Ⅱ、建築

1、神殿
計画はダビデが行ない、ソロモンが実施し、完成に七年かかっています(6:38)。

2、ソロモンの宮殿
完成まで13年かかっています(7:1)。ソロモン王自身と妻たちのために各地に宮殿を建て(9:16,17,24)、また軍用施設も建てています(9:19)。
主要部分は、広大な居住区と「レバノンの森の宮殿」と呼ばれていた避暑用の区域からなっていました。また、さばきをするための王座の広間(さばきの広間)を造り、そこは床の隅々から天井まで、杉材が張りつめてありました。ここが王の法廷です(7:1~8)。

3、軍事的建造物
エルサレムには防塞を築き、その周壁はすべて破れ口をふさぎ、一箇所の「弱み」も残していません(11:27)。
ソロモンは、主要な出入口に要塞を築き、これを鎖のようにつないで、全領域を完全防衛の状態に保っています。

イ、ハツォルの建設(9:15)レバノン山麓のはずれにあり、フーレ湖の近く。ここはかつてカナンの王ヤビンが治めていました。ソロモンはこの時、ダマスコの支配者レゾンの襲撃を恐れてハツォルの建設を行なったものと思われます(11:23~25)。

ロ、ゲゼルの建設(9:15)ゲゼルはエジプトの王パロが娘の結婚の贈物としてソロモンに与えた町です。これはエフライム地域の保全に役立ったと思われます。

ハ、下ベテ・ホロンの建設(9:17、歴代第二 8:5)ここはエルサレムに通じる天然の交通路を支配するための要所でした。

ニ、バアラテ(ダン)の建設(9:18)これはペリシテ人の攻撃を防ぐための要塞です。

更に幾つかの町を建築し、ソロモン王国は、アラビヤ砂漠、地中海、エジプト、シリヤに接する大王国に発展したのです。

Ⅲ、貿易(通商)(列王記第一 10:14~29、歴代誌第二 9:13~28)

1、陸上貿易

a、ソロモンの建設計画の遂行のため、フェニキヤの熟練した彫刻師、鋳造師の助けを求めたこと、

ツロの王ヒラムから輸入した商品は、衣服、金、銀、銅、杉材、ツロの必要品(ツロがイスラエルから買い入れた物)イスラエルの農産物

b、アラビヤに対する貿易、香料、宝石類の獲得

c、エジプトに対する貿易、特に軍事用の馬、馬車による大がかりな商隊による貿

ソロモンの馬と戦車の所有については「ソロモンは四千の馬屋と戦車、および騎兵一万二千を持っていた。彼はこれらを戦車の町々に配置し、またエルサレムの王のもとに置いた。」(歴代誌第二 9:25)に記されています。

2、海上貿易
紅海の入江のエツヨン・ゲベルに船団を持っていた(列王記第一 9:26)。
南部アラビヤにあったと思われるオフィルと貿易し、白檀、宝石類、金420タラントを運んで来た(列王記第一 9:28、10:11,12)。

5:1~18、ヒラムとソロモンの同盟(ヒラムの提供した資材と職人)

1節、ヒラムとソロモンの関係は、ヒラムと父ダビデとの友情に基づいていました。

Ⅰ列王 5:1 さて、ツロの王ヒラムは、ソロモンが油をそそがれ、彼の父に代わって王となったことを聞いて、自分の家来たちをソロモンのところへ遣わした。ヒラムはダビデといつも友情を保っていたからである。

先代に良い指導者を持っていたことは有難いことですが、それを引き継ぐ者が、それを保って完成させることは、先代以上の困難があります。歴史上の指導者を見ると、初代の指導者が優れていても、二代目、三代目になると、先代の苦労を経験せず、ただ繁栄を受け継ぐだけになってしまって、高慢になり、自分自身を磨くことをせず、国を堕落へと導いてしまいやすいのです。ソロモンもその例外ではありませんでした。

ここでも、ソロモンの方が何の努力もしなくても、ヒラムとダビデの友情関係から、ソロモンが王位を継承すると、ツロの王ヒラムの方からソロモンの所へ家来を遣わしています。

神殿建設の計画においても、ソロモンはダビデが計画し、準備してきたものを引き継いでいます。彼は神殿建設計画を引き継いだけれども、神の王国建設の信仰と理念と心とをダビデから引き継ぐことをしなかったのです。目に見えることを引き継ぐのは容易いですが、目に見えない信仰を引き継ぐことは、私たちの霊魂の実質と関係してきます。

ダビデは神殿を建てるのはソロモンであっても、その資材を集めたのです。必要な資材を集めることは、建築工事そのものよりも大変で、多くの費用を必要とするからです。また周囲の国々から輸入しなければならないので、周囲の国々との関係も良好に保っておく必要があったのです。

ダビデは、イスラエルにいる在留異国人の中から石材を切り出す石切り工を任命し、門の扉の釘、留め金用の鉄、青銅など、細かいものまで集めています。その中でも特に、シドンとツロから数えきれないほどの杉材を運んで来ています(歴代誌第一 22:2~5)。このためにダビデはツロの王ヒラムと深い友情関係を結んでいたのです。このフェニキヤ地方の杉材は、紀元前二千年頃から、メソポタミヤの南部の諸王やエジプトのナイル川のテーベの町々の諸王たちが羨望の的として欲しがっていたものです。これを手に入れることは、通常では困難だったのです。

ここに記されている「ツロの王ヒラム」は、ヒラム一世(BC969~936年)です。彼はフェニキヤ人で、ツロを征服し、国王となり、国の強力な指導者で、ツロにおいて神殿を建設し、神殿建設の技術を持つ者としてイスラエルのダビデにもその名が知られていました。

ヒラムはダビデが杉材を多量に買い付けていたのを知っていたので、ソロモンが王位を継承したのを聞くと、「いよいよエルサレムで神殿建築が始まる。」と考えたのです。彼は、利益を上げられる時が来たと判断したのです。そこで、ソロモンの王位継承を聞くと、すぐに家来を送って、ダビデとの関係を引き継ぐために挨拶をしたのです。

2節、ソロモンはヒラムの挨拶に対して、すぐに、父ダビデとヒラムとの同盟関係を引き継ぎ、神殿建設のために助けを求める返事を人をやって言わせています。

Ⅰ列王 5:2 そこで、ソロモンはヒラムのもとに人をやって言わせた。

その頃、すでにソロモンはパレスチナを通ってツロに通じる、あらゆる貿易道路を支配していたのです。

更に、ヒラムが支配していたツロは狭い海岸地帯で、穀物を生産することができませんでした。ソロモンはヒラムに必要な農産物を生産して、ヒラムの提供してくれるレバノンの杉材とソロモンの提供する穀物との交換条件によって、二人の間には平和な関係が続いたのです。

Ⅰ列王 5:3 「あなたがご存じのように、私の父ダビデは、彼の回りからいつも戦いをいどまれていたため、【主】が彼らを私の足の裏の下に置かれるまで、彼の神、【主】の名のために宮を建てることができませんでした。
5:4 ところが、今、私の神、【主】は、周囲の者から守って、私に安息を与えてくださり、敵対する者もなく、わざわいを起こす者もありません。
5:5 今、私は、私の神、【主】の名のために宮を建てようと思っています。【主】が私の父ダビデに『わたしが、あなたの代わりに、あなたの王座に着かせるあなたの子、彼がわたしの名のために宮を建てる』と言われたとおりです。
5:6 どうか、私のために、レバノンから杉の木を切り出すように命じてください。私のしもべたちも、あなたのしもべたちといっしょに働きます。私はあなたのしもべたちに、あなたが言われるとおりの賃金を払います。ご存じのように、私たちの中にはシドン人のように木を切ることに熟練した者がいないのです。」

ソロモンは、父ダビデとヒラムとの友情関係を継続するために、父ダビデのことを持ち出しています。そしてダビデは神殿建設を計画しましたが、実現することができませんでした。しかしソロモンの時代になって、王国は平和になり、繁栄し、敵対する国もなくなり、神殿を建設する力も持っています。そしてソロモンは主が命じられたように、ダビデの子ソロモンが神殿建設を実現するつもりであることを告げています。しかしそのためには、多量の建築資材が必要になります。そしてソロモンは近隣諸国が欲しがっていたレバノンの杉材を多量に求めたのです。この多量の杉材を山から切り出すために働いてくれるヒラムのしもべたちにはヒラムが言う通りの賃金を払うし、ソロモンのしもべの中からも、木を切ることに熟達した者を派遣して、一緒に働かせて下さいと、告げています。これは大きな貿易の取り引きだったのです。しかもこれは短期間で終わる取り引きではなく、長期間にわたるものですから、ソロモンとヒラムの間には長期の安定した友好関係が確立していることが必要だったのです。

Ⅰ列王 5:7 ヒラムはソロモンの申し出を聞いて、非常に喜んで言った。「きょう、【主】はほむべきかな。このおびただしい民を治める知恵ある子をダビデに授けられたとは。」

7節、ヒラムはソロモンのこの申し出を非常に喜んでいます。そして主をほめたたえ、ダビデに、国民を治める知恵の与えられた子ソロモンが授けられたことをほめたたえています。この言葉を見ると、ヒラムとダビデの友情は相当深いものであったことが分かります。ダビデはかつてヨナタンと深い友情を結んでいましたが、ここにもう一人ヒラムというすぐれた友人を持っていたのです。その父の残してくれた友情にソロモンは助けられたのです。

8,9節は、ヒラムの返事の内容です。

Ⅰ列王 5:8 そして、ヒラムはソロモンのもとに人をやって言わせた。「あなたの申し送られたことを聞きました。私は、杉の木材ともみの木材なら、何なりとあなたのお望みどおりにいたしましょう。
5:9 私のしもべたちはそれをレバノンから海へ下らせます。私はそれをいかだに組んで、海路、あなたが指定される場所まで送り、そこで、それを解かせましょう。あなたはそれを受け取ってください。それから、あなたは、私の一族に食物を与え、私の願いをかなえてください。」
5:10 こうしてヒラムは、ソロモンに杉の木材ともみの木材とを彼の望むだけ与えた。

ヒラムはソロモンの申し入れを全部、承諾しました。杉材はレバノンの山々から地中海のツロの海にまで下し、そこからいかだに組んで海路を使って、ソロモンの指定する場所まで送ることを承諾しました。そしてソロモンの思わく通り、ヒラムは一族のために食物を求めました。食料問題は昔も今も、世界中の問題なのです。

8節と10節の「もみの木材」は、おそらく糸杉と呼ばれているものだと思われます。10節の「彼の望むだけを与えた。」は、ヒラムがソロモンを特別扱いしていることを示しています。それほど二人の間は友好な関係にあったのです。

Ⅰ列王 5:11 そこで、ソロモンはヒラムに、その一族の食糧として、小麦二万コルを与え、また、上質のオリーブ油二十コルを与えた。ソロモンはこれだけの物を毎年ヒラムに与えた。

11節、ソロモンは約束通り、ヒラムの一族の食料として、小麦二万コル(1コルは約230リットルなので、二万コルは4600キロリットルになります。)、上質のオリーブ油20コル(4600リットル)を毎年ヒラムに与えています。「上質のオリーブ油」とは「打った油」の意味です。つまり絞りたての油のことです。

Ⅰ列王 5:12 【主】は約束どおり、ソロモンに知恵を賜ったので、ヒラムとソロモンとの間には平和が保たれ、ふたりは契約を結んだ。

12節、ヒラムの惜しみない協力に対して、ソロモンは十分な食料をもって答えたので、二人の間は長く平和が保たれ、同盟契約が結ばれたのです。

「主が約束どおり、ソロモンに知恵を賜わったので」ここでの知恵は知識の理解のようなものではなく、相手に対する誠実さや友情や、欲張って相手を裏切らない真実さを示しています。

13~18節、ソロモンは神殿建設に当たる役務者を選抜して、ソロモンとヒラムとの間で組織的に交替して働くために、十分な労働力を保つために組織化し、訓練を始めています。

Ⅰ列王 5:13 ソロモン王は全イスラエルから役務者を徴用した。役務者は三万人であった。
5:14 ソロモンは彼らを一か月交替で、一万人ずつレバノンに送った。すなわち、一か月はレバノンに、二か月は家にいるようにした。役務長官はアドニラムであった。
5:15 ソロモンには荷役人夫が七万人、山で石を切り出す者が八万人あった。
5:16 そのほか、ソロモンには工事の監督をする者の長が三千三百人あって、工事に携わる者を指揮していた。
5:17 王は、切り石を神殿の礎に据えるために、大きな石、高価な石を切り出すように命じた。

全イスラエルから選ばれた役務者は三万人でした。彼らを一か月交替で、一万人ずつレバノンに送って、レバノン杉の切り出しをさせています。レバノンで一か月働くと、二か月は自分の家に帰るようにしています。これは働きが重労働だったことと、家族と切り離されて働く者への配慮をしたのです。現代も単身赴任をする人がいますが、このような配慮がなされているのでしょうか。組識的には、イスラエル側の役務長官にアドニラムを任命しています。

15節、「荷役人夫が七万人」これは杉材を海から引き上げて、エルサレムまで運ぶ人夫のことでしょう。
「山で石を切り出す」石切り職人が八万人、石は杉材より、もっと重く、重労働です。

17節では「王は、切り石を神殿の礎に据えるために、大きな石、高価な石を切り出すように命じた。」と言っています。

16節、更に、工事を監督する長が三千三百人任命され、現場監督として工事に携わる労働者を指揮したのです。

このように、国民が王のために役務者として徴用されることは、最初にイスラエル人が王を求めた時、サムエルから予告されていたことです(サムエル記第一 8:10~18)。

18節、ソロモンは神殿建設の資材を準備するために三者集合体を雇って組織しています。

5:18 ソロモンの建築師と、ヒラムの建築師と、ゲバル人たちは石を切り、宮を建てるために木材と石材とを準備した。

これは他国間の企業組織で、当時は珍しい企業連合体です。

ゲバルはツロより北方で、現在のベイルートの北約21kmにある、ギリシャ語でビュブロス(「パピルス」という意味)で、フェニキヤの港町です。ソロモンはこのゲバル人の石工を雇っています。ゲバルは古くから造船業が盛んで、造船と修理に熟練した人々がいました(エゼキエル書27:9)。ゲバルは技術力のある町で、ソロモンはゲバル人の技術協力も求めたのです。

ゲバルの発掘は、1919年M・デュナンによって行なわれ、新石器時代から十字軍の時代まで居住跡が出土しています。

あとがき

よく悩みで周りの人を激しく非難する、お話を聞かされますが、肝心なこと、「それでは自分はどうなりたいのか。」最終目的がはっきりしていない人がいます。目的地が決まっていないのに、道をさがしているのです。もし、あなたの目的が、神の愛と平安に心が満たされて、天の御国に入ることなら、その道は「わたしが道です。」(ヨハネ14:6)と言われたイエス様です。主は「わたしを通してでなければ、だれひとり父のみもとに来ることはありません。」と言われました。しかし実際の生活で紅海の前まで来て、うしろに敵、前には海という、道の見えなくなる時があります。その時も「イエス様が道」です。イエス様を心の内で求めて下さい。海の底に乾いた道が現われて来ます。

(まなべあきら 2012.7.1)
(聖書箇所は【新改訳改訂第3版】より)


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