聖書の探求(006)  創世記(序) 名称、目的、年数、系図、統一性、主なメッセージ、分解

上の写真は、イスラエルのクムランの洞窟で発見された「Dead Sea Scroll(死海文書)」の断片で、創世記1章の一部。(Wikimedia Commonsより)


創世記

今回から、いよいよ創世記の探求に入ります。

1、創世記の名称について

(1) ユダヤ人は、その最初のことば「初めに」によって、この書を命名しました。

(2) タルムードの時代には、「世界創造の書」とも呼ばれました。(タルムードは、普通ユダヤ法典とよばれていますが、ユダヤの法律の由来の源泉となったものです。初めは、モーセの律法で成文化されていない事件について、単に口述されていた判例にすぎなかったのですが、キリストの時代には文書の形で記録され始めました。タルムードはミシュナとゲマラから成っています。)

(3) 「創世記」という名称は、2章4節の「これは天と地が創造されたときの経緯である。」のギリシャ語の70人訳聖書によっています。この「創世(GENESIS)」という語は、起源、始源、所産(事物の本源、または第一原因)という意味をもっています。そして、多くの翻訳聖書がこの名称を用いるようになったのです。
(2章4節の「創造」と訳されている語は5:1、6:9、10:1、11:10、11:27、25:12、25:19、36:1,9、37:2にも出てきますが、2:4以外の箇所では「伝」とか「系図」とか「歴史」とかに訳されています。)

この名称が表わすとおり、本書中には、宇宙と地球とその中の万物の初め、あるいはその起源を記しています。また創世記は、人間にあらわされた神の啓示の初めであり、ここに人類の初め、家族、社会、民族の初め、罪と犠牲の初め、約束と預言の初め、言語と芸術と文化と歴史の初めがあります。

2、目的

創世記が記された目的は、世の初めからイスラエル民族がエジプトに導き入れられ、神に選ばれた選民としての国家を形成する準備をするまでの神の啓示の歴史を示すことです。その中には、

  • 世界と人間の創造
  • 神と人との契約
  • 堕罪
  • 恵みの契約
  • 族長の生涯

などが含まれています。

第一部は、創造からアブラハムの召命に至るまでの時代(1~11章)です。この部分では、やや消極的な面が強く、イスラエル民族を他民族から分離する必要性があることを示しています。

第二部は、族長の召命あるいは神聖国家の準備(12~50章)ということができます。ここでは、イスラエル民族の分離に関して積極的な目標を示しています。

創世記中には、神と人との間に大きな契約が三つ結ばれています。

(1)ノアの洪水の前に、神はアダムと契約を 結ばれました(2:16,17)。

(2)ノアの洪水の後に、神はノアと契約を結ばれました(9:8~17)。

この二つの契約は普遍的なものでしたが、人間が神の戒めを守れず、真の宗教を保持することができなかったので、

(3)神は、さらに制限された契約を族長アブラハムと結ばれました(15章)。

人間が全人類を含む普遍的契約を破ったので、神はイスラエル民族を世界の他の民族から分離し、真の信仰によって義とされ、その信仰が栄え、ついに悪のもろもろの力を征服することができるようにされたのです。これが神のご計画です。

このように、創世記には多くの信仰の訓練があるにもかかわらず、大きな神の啓示の歴史の中では、揺藍期であったのです。

3、創世記中の年数

創世記5:1~32によれば、その子の生まれた時の年令を加算していくと、アダムよりノアの洪水までが1656年、ノアの洪水よりアブラハムの召命までが367年となります。

ノアの洪水を境にして人間の寿命が急速に短かくなっています。これは創世記6:3の「それで人の齢は、120年にしよう。」と仰せられた神のみことばによるものですが、その原因は、ノアの時の大洪水によって気候に異変が生じ、生活環境が変わってしまい病原菌も急速にふえたためと思われます。

ここで私たちが知りたいことの一つは、創世記の初期の出来事をどのようにしてアブラハムたちに伝えていったのかということです。アブラハムの時代には、すでに図書館があったことが考古学者の発掘によって分かっていますから、アダムがどのようにしてアブラハムにエデンの園で起きた出来事を伝えたかが分かれば、聖書にその出来事を記すことは当然できたことが、うなずけるわけです。

そこで年数に注目していただきたいのです。

アダムの生涯はメトシェラと243年重なっています。

メトシェラの生涯はノアと600年、セムと98年重なっています。アダムの死からノアの誕生まで、わずか126年しか離れていないのです。

ノアは洪水後350年生きて、アブラハムの誕生の2年前に死にました。

セムは洪水の98年前に生まれ、洪水後502年生きました。セムはアブラハムのカナン入国後も、75年間生きていたのです。

アダムは7代の子孫が生まれるまで生きていたし、ノアは彼の9代の子孫が生まれるまで生きていました。

この年数からしますと、

(1)創造や堕落の出来事は、
アダムから直接メトシェラやレメクにまで伝えられ、メトシェラやレメクはノア(レメクの息子)に直接伝えることができました。

(2)洪水の出来事は、
ノアと共にそれを直接体験したセムが、アブラハムに直接伝えることができました。

(3)アブラハムの召命のことも、アブラハムの死の時、ヤコブはすでに16才になっていたから、ヤコブはその出来事をアブラハムから直接聞いていたはずです。

このようにして、アダムは4人の仲介者を通してその出来事をヤコブに伝えることができました。ヤコブはヨセフをはじめ、イスラエルの一族にこれらの出来事をすべて広く伝えたはずです。そして創世記を記したモーセの時代には、これらの出来事を記した記録文が書かれるに至っていたのです。

4、系図に関する記録

聖書は、新しい時代が始まろうとする度に、系図をのせています。系図はイスラエルにとって、神の啓示の歴史であり、あかしであったからです。

創世記では、

  • 2:4 天地創造の経緯
  • 5:1 アダムの歴史
  • 6:9 ノアの歴史
  • 10:1 ノアの息子セム、ハム、ヤペテの歴史
  • 11:10 セムの歴史
  • 11:27 テラの歴史
  • 25:12 イシュマエルの歴史
  • 29:19 イサクの歴史
  • 36:1 エサウ(エドム)の歴史
  • 37:2 ヤコブの歴史

(「1.創世記の名称について」の項を参考)

5、創世記の統一性

創世記中には、厳密に神の意図的な流れが中心に走っています。

(1) アダムからヤコブまで、アダムの家族の 主流派と傍系派とを明白に区別して扱っています。

  • セツとカイン
  • セムとハム、ヤペテ
  • アブラハムとロト
  • イサクとイシュマエル
  • ヤコブとエサウ

両者の間には明確な区別がなされています。聖書では、ほかにいかに栄えた民族があっても、神の道を歩んでいくものが主流であり、永遠に残るのです。ヨハネは次のように言っています。

「世と世の欲は滅び去ります。しかし、神のみこころを行なう者は、いつまでもながらえます。」(ヨハネの手紙第一、2:17)

聖書中、クリスチャンこそ、神の道を歩む主流であることは間違いありません。ですから周囲の繁栄した多くの民にまどわされないで神の道を最後まで歩みたいものです。

(2) 神は、選んだ人物、選んだ民族を他のものから分離することによって、あがないの目的を達成しようと、準備しておられることが分かります。神のご計画はあまりに偉大でありますが故に、すでにそのご計画が始まっていても、私たちに気づかないことが多いのです。この創世記においても、各所に神のあがないのご計画が見られます。その一つが、創世記中の代表的3人の人物の中に見られます。

(イ)アダム(人類の誕生を意味します。)

彼の事件は堕落、すなわち罪です(3:1~13)。

彼に対する神の約束は、サタンとの闘争と、勝利と、生活の苦しみです(3:14~19)。

神が彼に与えたしるしは、ケルビムと剣です(3:24)。これは罪によって人は神から離れてしまうことを示しています。

(ロ)ノア(人類の保存を意味します。)

彼の事件は洪水、すなわち神の審判です(6~8章)。
彼に対する神の約束は、支配(9:1~3)と、いのちが神聖であること(9:4~7)と、祝福の保証 (9:8~17)です。

神が彼に与えたしるしは虹です(9:13~17 )。これは、罪のために、神の前に正しく生きている者が他のものから分離されたことを示しています。

(ハ)アブラハム(人類の祝福を意味します。)

彼の事件は召命、すなわちあがないです(12:1~3)。

彼に対する神の約束は、土地(カナンの地)(13:14~17)と、子孫(15:4~5)と、祝福(17:1~21)です。神が彼に与えたしるしは割礼です(17:10~14、23~27)。これは 罪から離れることを意味しています。

実に、パウロが同族のユダヤ人から激しい迫害を受けたのは、この割礼の問題によるものでした。パウロは、外国人は割礼の儀式を受けなくても、イエス・キリストを信じる信仰によってのみ救われることを強調しました。これに対してユダヤ人たちは、外国人がクリスチャンとなるためには、まず割礼の儀式を受けてユダヤ人となり、ついでクリスチャンになるべきだと主張したのです。彼らは割礼の儀式そのものが重要であると考えたのです。

いつの時代でも、宗教は、心の中の信仰の内容よりも外見上の儀式的なものを重要視する危険があります。今日でも、イエス・キリストを信じていることよりも、洗礼を受けていることのほうが重要だと考えている人が少なくありません。しかし神がアブラハムに割礼を要求された時でも、外見上の儀式を要求されたのではないことは明らかです。外見上のことは、神に反逆する頑な心を捨てて、従順な民となっていることを表わすしるしでしかなかったのです。

「彼らの無割礼の心はへりくだり、彼らの咎の償いをしよう。」(レビ記26:41)

「あなたがたは、心の包皮を切り捨てなさい。もううなじのこわい者であってはならない。」(申命記10:16)

「主のために割礼を受け、心の包皮を取り除け。」(エレミヤ書4:4)

「外見上のからだの割礼が割礼なのではありません。かえって…・御霊による心の割礼こそ割礼です。」(ローマ2:28~29)

「神の御霊によって礼拝をし、キリスト・イエスを誇り、人間的なものを頼みにしない私たちのほうこそ、割礼の者なのです。」(ビリピ3:3)

「キリストにあって、あなたがたは人の手によらない割礼を受けました。肉のからだを脱ぎ捨て、キリストの割礼を受けたのです。」(コロサイ2:11)

私たちも洗礼を受けているということだけで満足していてはいけません。また礼拝の式に出席しているというだけで満足してはいけません。みことばにあるとおり、頑固な心が砕かれ、御霊によって礼拝し、内なる信仰が満ちあふれ、日ごとに霊魂が刷新されていることが大切なことです。パウロは、

「キリスト・イエスにあっては、割礼を受ける受けないは大事なことではなく 愛によって働く信仰だけが大事なのです。」 (ガラテヤ5:6)と言っています。

以上のことを分析して整理してみますと、重大なことを発見することができます。すなわち、創世記中には三つのテーマが重なるようにして述べられていることです。それを表にしてみますと、

全体的には 審判 あがない
3人の代表 事件 約束 しるし
必要に対する約束 救い主 安全 祝福
人類 堕落 刑罰 あがない
創造主 審判者 救い主

このように創世記中には、あきらかに、一つの目的を果すための神の意図が強く流れていることが分かります。

6、創世記中の主なメッセージ

(1)鍵のことばは「初めに、神が」(1:1)です。

創1:1 初めに、神が天と地を創造した。

これは創造の初めであって、ヨハネの福音書1:1の永遠の初めではありません。

ヨハ1:1 初めに、ことばがあった。ことばは神とともにあった。ことばは神であった。

しかし創造の初めも、神的初めです。創世記中には、創造の起源、人の起源、罪の起源、あがないの起源があります。

(2)神の臨在は、創造者、律法賦与者、保護者審判者、あがない主として記されています。

(3)神の目的であるあがないは、最初から最後まで最重要課題として記されています。

(4)神のご計画は、次のものを用いてなされています。

(イ)神ご自身の導きのもとに

神が先頭に立っておられ、人はその後に従っているのにすぎません。

(ロ)明確な目的をもって

その目的は、文明化(カインのつくった社会)ではなく、征服(ニムロデのつくった社会)でもなく、救いによる霊的祝福(アブラハムの信仰)です。

(ハ)ふさわしい手段をとおして

ノアの信仰、アブラハムの信仰、イサクの信仰、ヤコブの信仰、ヨセフの信仰をとおして神はみわざを行なわれました。(ヘブル人への手紙11章参考)これは、神がご計画を完成するには、神の啓示に答える人の信仰が必要であることをあらわしています。

(5)神の約束 神はご自分の民を最初から最後まで、ご自分の手で支えられ、ご自分で養われます。創世記50:20~21,25、イザヤ書46:3~4

7、創世記の分解

分解は聖書の内容の主要な流れを整理して理解するのに、非常に役立ちます。また分解は探求してみようと思う題目(たとえば、人物、出来事、場所、メッセージの内容など)によって変えることができます。分解は決められているものではありませんから、ここにあげましたもの以外にも、ご自分で気に入ったものを作ってみると、よい学びになります。

上の図の分解では、神の啓示が人類全体から、特定の民族にしぼられていることが分かります。この分解は三区分されていて分かりやすいと思います。

また、上の図の分解では、二区分されていて、その区切りの章が先の分解と同じ章であるということは、確かにこの章で神の啓示が突然、一民族にしぼられたことが確認できます。またこの分解では、歴史を題目として考えており、しかも後半の部分は民族全体というより、族長の歴史がその中心であることが分かります。
この当時は、民族を構成するほどにはなっておらず、アブラハム、イサク、ヤコブを中心とした部族程度のものであったからです。しかし彼らは預言的な意味において、神から大民族としての約束を受けていたのです。
この分解をさらに細かく分解してみますと、原始の歴史は四つの出来事に分けることができます。

(1)1~2章 創造

1章 宇宙の創造
2章 人間の創造

(2)3~5章 堕落

3章 堕罪のプロセス
4~5章 堕罪の結果
4章 殺人
5章 死

(3)6~9章 ノアの洪水

6章 ノアと箱舟
7章 ノアと洪水
8章 ノアと祭壇
9章 ノアと契約

(4)10~11章 民の分散(バベルの塔)

10章 分散の実情
11章 分散の原因

 

後半の族長の歴史は、四人の族長で代表されています。

(1)11~25章 アブラハム(太字はトピックス、細字はその他の記事)

11章 アブラハムの誕生
12章 アブラハムの召命
13章 ロトとの訣別
14章 ロトを救出
15章 信仰義認
16章 ハガルとイシマエルの誕生
17章 契約
18章 アブラハムの祷告
19章 ソドムとゴモラの滅亡
20章 ゲラル滞在
21章 イサク誕生
22章 イサクの献上
23章 サラの死
24章 イサクの結婚 (リベカ)
25章 アブラハムの死

(2)17章~30章 イサク

24章 イサクの結婚
26章 井戸掘りと争い

(3)25~50章 ヤコブ

25章 ヤコブの誕生と長子の権利
27章 祝福の略奪
28章 ベテルでの神経験
29章 ヤコブの結婚
30章 ヤコブの労働
31章 ヤコブの帰国
32章 ぺヌエルでの神経験
33章 エサウと再会
34章 シメオンとレビの暴虐
35章 イスラエルに改名
36章 エドム(エサウ)の歴史
37章 ヤコブの偏愛
(38章ペレツの誕生 この記事はヤコブと関係はないが、後のイスラエルの歴史を示すために挿入されている。)
42章 第一回エジプト訪門
43章 第二回エジプト訪門
46章 エジプト移住
47章 パロとの会見
48章 ヨセフヘの祝福
49章 子孫に対する祝福と死
50章 ヤコブの埋葬

⑷30~50章 ヨセフ

30章 ヨセフの誕生
37章 ヨセフの愛
39章 誘惑と祝福
40章 献酌官長と調理官長
41章 バロの夢とヨセフの高揚
42~43章 兄弟たちと再会
44章 銀の杯(ユダの嘆願)
45章 ヨセフの告白
46章 ヤコブとの再会
47章 ヤコブの葬りの誓い
48章 エフライムとマナセヘの祝福
49章 ヤコブの預言
50章 ヤコブの埋葬とヨセフの死

このほかにも

1~2章 創造 出発 建設
3~11章 罪 堕落 崩壊
12~50章 あがない 再生 再建

というような内容の概念による分解の方法もありますが、ご自分の研究の材料にしていただければ幸いです。とにかくいろいろな分解を考えているうちに、その書の内容の大略を把握することができるようになります。

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