聖書の探求(180) ヨシュア記 序(3) 時代の古さを示す特徴、目的と概要、記事の証拠、分解

上の地図は、ヨシュアの時代のイスラエル地図(「バイブルガイドー目で見て分かる聖書」マイク・バーモント著、いのちのことば社より)

Ⅷ、ヨシュア記の中の時代の古さを示す特徴.

①15章、カナンの町々は、旧名で呼ばれている。

9節「バアラ」(旧名)→新名「キルヤテ・エアリム」
49節「キルヤテ・サナ」(旧名)→新名「デビル」
54節「キルヤテ・アルバ」(旧名)→新名「ヘブロン」

②16章10節では、カナン人はゲゼルに住んでいますが、ソロモンの時代(列王記Ⅰ9:16)には、エジプトの王パロにより滅ぼされています。

ヨシ 16:10 彼らはゲゼルに住むカナン人を追い払わなかったので、カナン人はエフライムの中に住んでいた。今日もそうである。カナン人は苦役に服する奴隷となった。

Ⅰ列王 9:16 ──エジプトの王パロは、かつて上って来て、ゲゼルを攻め取り、これを火で焼き、この町に住んでいたカナン人を殺し、ソロモンの妻である自分の娘に結婚の贈り物としてこれを与えていたので、

③18章16,28節、エルサレムはまだイスラエルの国の首都ではない。

ヨシ 18:16 境界線は、北のほう、レファイムの谷間の中のベン・ヒノムの谷を見おろす山の端に下り、ヒノムの谷を、南のほうのエブス人のいる傾斜地に下り、エン・ロゲルに下る。

ヨシ 18:28 ツェラ、エレフ、エブスすなわちエルサレム、ギブアテ、キルヤテなど十四の町と、それらに属する村々であった。これがベニヤミン族の諸氏族の相続地であった。

a、ベテ・ハアラバはユダのものと言われ(15:6)、後にはベニヤミンのものと言われています(18:22)。

ヨシ 15:6 境界線は、ベテ・ホグラに上り、ベテ・ハアラバの北に進み、境界線は、ルベンの子ボハンの石に上って行き、

ヨシ 18:22 ベテ・ハアラバ、ツェマライム、ベテル、

しかしこの荒野の場所はその境にありました(15:61)。

ヨシ 15:61 荒野では、ベテ・ハアラバ、ミディン、セカカ、

それ故、この場所はユダとベニヤミンの両方に属していたか(18:18では単にアラバと呼ばれている)最初はユダのものであり、その後、ベニヤミンのものとされたのでしょう。
ヨシ 18:18 それから、北のほう、アラバの近くの傾斜地に進み、アラバに下る。

べテ・シェメシュ(19:41では、イル・シェメシュ)に関しては、それはユダの境にあり、これはダン族にではなく祭司アロンの子孫のレビ族に与えられました。(21:16)。

ヨシ 19:41 彼らの相続地となる地域は、ツォルア、エシュタオル、イル・シェメシュ、

ヨシ 21:16 アインとその放牧地、ユタとその放牧地、ベテ・シェメシュとその放牧地。すなわちこれら二つの部族から九つの町を与えた。

マナセの境に近いタブアハはエフライムのものとされました(17:8)。

ヨシ 17:8 タプアハの地は、マナセのものであったが、マナセの境界に近いタプアハは、エフライム族のものであった。

これらは決してヨシュア記が矛盾しているとか、伝承と相容れないことの証拠ではありません。

b、16章1~4節と17章14~18節では、ヨセフのニ人の子の相続分が一つであると言われているのに、16章5,9節と17章1節前半では、エフライム族とマナセ族のニつに分けられています。

マナセとエフライムとが分離されないように、ヨセフの子孫は一つのくじを引きました、が、その相続地はすぐに分割されたのです。ここには一致しない伝承はありません。

C、ヨセフ族の南の境界線を記した後(16:1~3)、記録は新しく16章4節で始まり、その記事は繰り返されています(16:5~8)。

ヨシ 16:1 ヨセフ族が、くじで割り当てられた地の境界線は、東、エリコのあたりのヨルダン川、すなわちエリコの水から荒野に出、エリコから山地を上ってベテルに至り、
16:2 ベテルからルズに出て、アルキ人の領土アタロテに進み、
16:3 西のほう、ヤフレテ人の領土に下り、下ベテ・ホロンの地境、さらにゲゼルに至り、その終わりは海であった。

4節は、1~3節の要約の記述で結語の役目を果たしています。

ヨシ 16:4 こうして、ヨセフ族、マナセとエフライムは、彼らの相続地を受けた。

5節からは、エフライムの境界線を詳しく述べています。

ヨシ 16:5 エフライム族の諸氏族の地域は、次のとおりである。彼らの相続地の東の境界線は、アテロテ・アダルから上ベテ・ホロンに至り、
16:6 その境界線は、西に向かって、北方のミクメタテに出、その境界線は、東に回ってタアナテ・シロに至り、そこからヤノアハの東に進み、
16:7 ヤノアハからアタロテとナアラに下り、それからエリコに達し、ヨルダン川に出る。
16:8 西の境界線は、タプアハからカナ川に行き、その終わりは海であった。これが、エフライム部族の諸氏族の相続地であった。

④その他に、

2章15節、ラハブの家がエリコの町の城壁の中に建て込まれていたこと(発掘されています。)

ヨシ 2:15 そこで、ラハブは綱で彼らを窓からつり降ろした。彼女の家は城壁の中に建て込まれていて、彼女はその城壁の中に住んでいたからである。

13章4~6節、.シドンがフェニキヤの首都となっています。その後(ソロモンの時代の頃でさえ)、ツロが最も重要な都市になっています。

ヨシ 13:4 カナン人の全土、シドン人のメアラからエモリ人の国境のアフェクまでの地。
13:5 また、ヘルモン山のふもとのバアル・ガドから、レボ・ハマテまでのゲバル人の地、およびレバノンの東側全部。
13:6 レバノンからミスレフォテ・マイムまでの山地のすべての住民、すなわちシドン人の全部。わたしは彼らをイスラエル人の前から追い払おう。わたしが命じたとおりに、ただあなたはその地をイスラエルに相続地としてくじで分けよ。


Ⅸ、カナン征服の記事の証拠

1、カナン征服の記事は、目撃者の筆によって書かれたことは明らかです。

要害(地形が悪く、防ぎ守るのに適した所)、地形、耕作、豊作、人口密度の高い国、石垣の城壁で囲まれた町、番兵を置いている町々、鉄の戦車、様々な独立した民族が散在していることなどは、ヨシュアの時代のカナンの様子をそのまま描いています。

同時に、エジプトの記録によっても、テルエルアマルナの碑文によっても、同じような記録を見ることができます。

それ故、ヨシュア記は、6章25節に、「ラハブは今日までイスラエルのうちに住んでいる。」とあるとおり、その当時
の記述であって、後世になって書かれたものでないことが証明できます。

ヨシュア 6:25しかし、遊女ラハブとその父の家の一族と彼女に属するすべてのものとは、ヨシュアが生かしておいたので、ラハブは今日までイスラエルのうちに住んでいる。これはヨシュアがエリコを探らせるためにつかわした使者たちをかくまったためである。

2、「エルサレム」という名がヨシュア記(12:10)に記されているので、この町はダビデの治世の時に初めてエルサレムと名づけられたと反駁する人がいますが、アークハート氏によれば、
「エジプトのテルエルアマルナで発見されたエルサレム王の手紙を見れば、その手紙はヨシュアがカナンを征服する頃に書かれたものであって、その中にエルサレムという名が書いてある。これは聖書の記事と一致する。」と言っています。

ヨシ 12:10 エルサレムの王ひとり。ヘブロンの王ひとり。

3、また、これらの碑文や記録によれば、ハビリ人(ヘブル人のこと)のことが記されています。

そしてカナンの諸地方の民がエジプトに助けを乞い求め、何としても彼らの強敵を防ごうとしたことを記しています。それらには「ヘブル人は、カナンの地とその神々とを襲撃し、ますます強暴を極めた。」とあります。

Ⅹ、目的と概要

本書は、神が神政下にある民を、荒野から約束の地にどのように導かれたかを示すことにあります。すなわち、

1、モーセの五書に記されている歴史の続きを記し、ヨシュアのもとでの神政政治の歴史を明らかにする役割を果たしています。

2、ヨシュアが神から委託された任務を、どのように忠実に果たしたか、また神がその約束を成就されて、どのように民に約束の地を与えられたかを示す役割も果たしています。

[本書の内容と年代]

モーセの死からヨシュアの死までを記しており、

BC1405年~BC1375年頃までの約30年間の出来事を含んでおり、

ヨシュアに率いられたイスラエル人が、約束の地カナンを征服し、分配したことを記しています。律法の代表者であったモーセは、イスラエルを約束の地の境界まで導くことができましたが、民をカナンの地に導き入れることはできませんでした。出エジプトをした者のうち、ヨシュア(エホシュア=ヤーウェは救い主の意味)とカレブだけが入ることができました。

「こうして、律法は私たちをキリストヘ導くための養育係となりました。私たちが信仰によって義と認められるためなのです。」(ガラテヤ3:24)

[鍵の句]

1章2,3節、占領

「わたしのしもベモーセは死んだ。今、あなたとこのすべての民は立ってこのヨルダン川を渡り、わたしがイスラエルの人々に与えようとしている地に行け。あなたがたが足の裏で踏む所はことごとく、わたしがモーセに約束したとおり、あなたがたに与えている。」
11章23節、カナン占領(約束の地)、主の約束の成就、土地の分割(産業)、安息の到来(先住民との戦いは止んで)

「こうしてヨシュアは、その地をことごとく取った。すべて主がモーセに告げたとおりであった。ヨシュアはこの地を、イスラエルの部族の割り当てにしたがって、相続地としてイスラエルに分け与えた。その地に戦争はやんだ。」

23章1節、安息

「主が周囲のすべての敵から守って、イスラエルに安住を許されて後、多くの日がたち、ヨシュアは年を重ねて老人になっていた。」

[霊的教訓]

1、神の計画の的確な成就(神の忠実・真実)

2、カナン人に対する審判の執行(神の聖、神の義)

3、イスラエル人に対する領土の授与(神の愛、神の救い)

[本書に見る予表(ひな型)]

中心は、信仰の戦い

①神のことばに基づいた信仰(1:1~9)

③ヨシュアの指示と行動(1:10~ )

③全き服従(5章)

④霊の安息(11章)

⑤積極的、進取的信仰(13章)

⑥波及的信仰あるいは信仰の選択(24:15)

ヨシ 24:15 もしも【主】に仕えることがあなたがたの気に入らないなら、川の向こうにいたあなたがたの先祖たちが仕えた神々でも、今あなたがたが住んでいる地のエモリ人の神々でも、あなたがたが仕えようと思うものを、どれでも、きょう選ぶがよい。私と私の家とは、【主】に仕える。」

[他の書との比較・関連]

l、エペソ人への手紙(霊的意味において)- 天の所の生涯(きよめの生涯)

2、使徒の働き(使者的、内容的に)

四福音書(イエス・キリストの生涯)- 使徒(宣教活動)
モーセの五書(律法)- ヨシュア紀(進撃的勝利)

Ⅺ、分解

分解は、これと言って定まったものがあるわけではありません。内容的に、だれが分けても同じようになるところはありますが、あとは、各自で独自の気に入った分解を作ってみてください。ここにご紹介している分解は見本にしかすぎません。

ヨシェア記は大きく分けると、だれが分けても12章と13章を境にして二つに分けることができます。

(前半)1~12章、カナン入国と征服(占領)
(後半)12~24章、約束の地の分配

これを五つに分けるなら、

前半は、
1:1~9、ヨシュアの任命
1:10~5:12、カナン入国
5:13~12章、カナン征服

後半は、
13章~22章、カナン分配   .
23章~24章、ヨシュアの告別

これをもっと詳しく分解すると、前半を三つ、後半を三つに分けてみます。

(前半)

①1~2章、入国準備
. 1章、ヨシュアの召命
. (1:1~9、本書全体の緒言)
. 2章、エリコの偵察
. (1:10~2章、ヨルダン渡河の準備)

②3~5章、入国
. 3章、ヨルダン渡河
. 4章、記念の石
. 5章、主の軍の将(ギルガルにおける事件)

③6~12章、戦斗
. 6~8章、中部作戦
. 6章、エリコの攻略
. 7章、アカンの盗みと審判
. 8章、アイの攻撃
. 9~10章、南部作戦
. 9章、ギブオン人のたくらみ
. 10章、ギブオン人を助けて(南部征服)
. 11~12章、北部作戦
. 11章、北部の征服
. 12章、占領地と王たちの人名簿

(後半)

①13~15章、カレブ
. 13章、取るべき残れる地
. 13:1~7、まだ征服していない町々とその地を九部族と半部族に分ける命令
. 13:8~33、東方部族の領土
. 14章、カレブの積極的信仰の態度
. (14~19章は、西方部族の領土を扱っています。)
. 15章、アクサとオテニエル(ユダ族の地)

②16~17章、ヨセフの子孫
. 16章、エフライム族の地
. 17章、マナセ族の地(自ら切り開くべし)

③18~24章、その他
. 18章、第二の分配の準備とベニヤミン族の地
. 19章、その他の部族の地
. 1~9節、シメオン族の地
. 10~16節、ゼブルン族の地
. 17~23節、イッサカル族の地
. 24~31節、アシェル族の地
. 32~39節、ナフタリ族の地
. 40~48節、ダン族の地
. 49~51節、ヨシュアの相続地(ティムナテ・セラフ)
. 20章、六つの逃れの町
. 21章、祭司とレビ人の地
. 22章、ニ部族半の帰国
. 23章、勝利の回想と展望と警告
. 24章、ヨシュアの告別のことば

あとがき

去年、空缶に土を入れて柿の種を蒔いておきました。
先日、その種が腐っていないかと思って、一寸、土を指でほじくってみると、土の下でもう白い芽を準備していました。
春はもう、そこまでやって来ています。草木は枯れているように見えていても、いのちの息吹、いのちの胎動を始めているのですね。
「腐ったんじゃないか」と思う私の考えとは全く違っていました。信仰は見えるところではなく、みことばと聖霊の息吹を受けることではないでしょうか。
私も次から次へと困難に見舞われていますが、今、ご病気の方、困難の中にある方、もう春はすぐ近くに釆ていますよ。
希望を捨てずに、もうしばらく忍耐しましょう。芽を出す日は刻々と近づいています。ヘブル10:35,36。「ですから、あなたがたの確信を投げ捨ててはなりません。それは大きな報いをもたらすものなのです。あなたがたが神のみこころを行って、約束のものを手に入れるために必要なのは忍耐です。」

(まなべあきら 1999.3.1)
(聖書箇所は【新改訳改訂第3版】を引用。)


 

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