聖書の探求(027) 創世記27章 イサクの祝福

イタリアの画家 Gioacchino Assereto (1600–1649)による「Isaac blessing Jacob(ヤコブを祝福するイサク)」(Wikimedia Commonsより)


この章は、母リベカの計略に従ってヤコブが父イサクをだまして、すべての祝福を受ける、イサクの祝福の章です。

〔27章の概要〕

1~4節 エサウを祝福しようとするイサクの考え
5~13節 リベカの策略
14~29節 ヤコブ、父をだます
‐ 14~17節 準備
① 14節 父の好む料理をつくる
② 15節 兄エサウの晴れ着を着る
③ 16節 子やぎの皮をかぶる
④ 17節 おいしい料理とパンを持つ
‐ 18~25節 イサクの疑惑とヤコブの偽り
‐ 26~29節 イサク、祝福する
30~40節 エサウ、父のもとに行く
‐ 30~33節 エサウの準備と父の駕き
‐ 34~40節 エサウの嘆き(ヘブル12:16,17)
41~46節 エサウのうらみ-エサウはヤコブを憎み、殺す決意をした。

ヘブル 12:16 また、不品行の者や、一杯の食物と引き替えに自分のものであった長子の権利を売ったエサウのような俗悪な者がないようにしなさい。
12:17 あなたがたが知っているとおり、彼は後になって祝福を相続したいと思ったが、退けられました。涙を流して求めても、彼には心を変えてもらう余地がありませんでした。

〔エサウとヤコブの運命〕

27章には、イサクの二人の息子エサウとヤコブの相反する性質と運命が次第に展開していく様子が記されています。

(1)エサウは、自ら悪しき運命を選び取りました(26:34、35)。

創 26:34 エサウは四十歳になって、ヘテ人ベエリの娘エフディテとヘテ人エロンの娘バセマテとを妻にめとった。
26:35 彼女たちはイサクとリベカにとって悩みの種となった。

神の選民の先祖となることは、アブラハムの子孫にだけ与えられた特権です。しかしエサウはへテ人の娘と結婚し、彼は永久に長子の特権を捨てています。彼は異教の不信者を妻にめとったばかりでなく、多妻の結婚をしています。彼は先に弟ヤコブに長子の権利を売りましたが、ここでは全くその権利の破棄を決定的なものにしてしまいました。

(2)エサウを祝福しようとするイサクの考え(27:1~4)

創 27:1 イサクは年をとり、視力が衰えてよく見えなくなったとき、長男のエサウを呼び寄せて彼に「息子よ」と言った。すると彼は、「はい。ここにいます」と答えた。
27:2 イサクは言った。「見なさい。私は年老いて、いつ死ぬかわからない。
27:3 だから今、おまえの道具の矢筒と弓を取って、野に出て行き、私のために獲物をしとめて来てくれないか。
27:4 そして私の好きなおいしい料理を作り、ここに持って来て私に食べさせておくれ。私が死ぬ前に、私自身が、おまえを祝福できるために。」

この27章ではイサクの一家四人ともみな間違いを犯しています。第一に、イサクがエサウを祝福しようとしたのは間違いです。

① イサクには、神がヤコブを選んでおられることが分かっていたのに、神のみ旨にそむいて、エサウを祝福しようとしたのです。

② 26:34、35と27:37からすると、イサクは、エサウの結婚で家庭の状態が乱れ、エサウが家庭から離れていってしまうのではないかと恐れて、エサウを祝福しようとしたものと思われます。

創 27:37 イサクは答えてエサウに言った。「ああ、私は彼をおまえの主とし、彼のすべての兄弟を、しもべとして彼に与えた。また穀物と新しいぶどう酒で彼を養うようにした。それで、わが子よ。おまえのために、私はいったい何ができようか。」

③ 昔の信仰者は臨終が近づいてから、その子たちを祝福しましたが、イサクは祝福の後、なお二十年も生きています。これはすなわち、イサクは、まだ神の定めた時が来ていないのに、自分のあせりから急いで祝福してしまったのです。

④ イサクのこの企てには、肉的な卑しい動機が含まれています。彼は老年になって、食事に美味を好むようになり、その嗜欲の誘惑によったのです。エサウは一杯のスープのために長子の権利を売り、イサクは一食の美味のために長子の祝福を与えようとして罪に陥ったのです。

(3)リベカの策略(27:5~17)

創 27:5 リベカは、イサクがその子エサウに話しているのを聞いていた。それでエサウが獲物をしとめて来るために、野に出かけたとき、
27:6 リベカはその子ヤコブにこう言った。「いま私は、父上が、あなたの兄エサウにこう言っておられるのを聞きました。
27:7 『獲物をとって来て、私においしい料理を作り、私に食べさせてくれ。私が死ぬ前に、【主】の前でおまえを祝福したいのだ。』
27:8 それで今、わが子よ。私があなたに命じることを、よく聞きなさい。
27:9 さあ、群れのところに行って、そこから最上の子やぎ二頭を私のところに取っておいで。私はそれで父上のお好きなおいしい料理を作りましょう。
27:10 あなたが父上のところに持って行けば、召し上がって、死なれる前にあなたを祝福してくださるでしょう。」
27:11 しかし、ヤコブは、その母リベカに言った。「でも、兄さんのエサウは毛深い人なのに、私のはだは、なめらかです。
27:12 もしや、父上が私にさわるなら、私にからかわれたと思われるでしょう。私は祝福どころか、のろいをこの身に招くことになるでしょう。」
27:13 母は彼に言った。「わが子よ。あなたののろいは私が受けます。ただ私の言うことをよく聞いて、行って取って来なさい。」
27:14 それでヤコブは行って、取って、母のところに来た。母は父の好むおいしい料理をこしらえた。
27:15 それからリベカは、家の中で自分の手もとにあった兄エサウの晴れ着を取って来て、それを弟ヤコブに着せてやり、
27:16 また、子やぎの毛皮を、彼の手と首のなめらかなところにかぶせてやった。
27:17 そうして、自分が作ったおいしい料理とパンを息子ヤコブの手に渡した。

リベカの計画も間違っていました。彼女の心の願いは良かったけれども、方法は非常に悪いものでした。彼女は自分の知恵による工夫で、神のご計画を成就しようとしたのです。彼女は目的のために手段を選ば ず、自分の手段をもって神のみ旨を行なおうとしましたが、この手段は恐ろしい罪でした。リベカは、イサクが未だ臨終になる前にエサウを祝福すると聞いた時、神の約束が成就しないのではないかと考えて、夫イサクと反対の計画を立てたのです。

(4)ヤコブの欺まん(27:18~29)

創 27:18 ヤコブは父のところに行き、「お父さん」と言った。イサクは、「おお、わが子よ。だれだね、おまえは」と尋ねた。
27:19 ヤコブは父に、「私は長男のエサウです。私はあなたが言われたとおりにしました。さあ、起きてすわり、私の獲物を召し上がってください。ご自身で私を祝福してくださるために」と答えた。
27:20 イサクは、その子に言った。「どうして、こんなに早く見つけることができたのかね。わが子よ。」すると彼は答えた。「あなたの神、【主】が私のために、そうさせてくださったのです。」
27:21 そこでイサクはヤコブに言った。「近くに寄ってくれ。わが子よ。私は、おまえがほんとうにわが子エサウであるかどうか、おまえにさわってみたい。」
27:22 ヤコブが父イサクに近寄ると、イサクは彼にさわり、そして言った。「声はヤコブの声だが、手はエサウの手だ。」
27:23 ヤコブの手が、兄エサウの手のように毛深かったので、イサクには見分けがつかなかった。それでイサクは彼を祝福しようとしたが、
27:24 「ほんとうにおまえは、わが子エサウだね」と尋ねた。すると答えた。「私です。」
27:25 そこでイサクは言った。「私のところに持って来なさい。私自身がおまえを祝福するために、わが子の獲物を食べたいものだ。」そこでヤコブが持って来ると、イサクはそれを食べた。またぶどう酒を持って来ると、それも飲んだ。
27:26 父イサクはヤコブに、「わが子よ。近寄って私に口づけしてくれ」と言ったので、
27:27 ヤコブは近づいて、彼に口づけした。イサクは、ヤコブの着物のかおりをかぎ、彼を祝福して言った。「ああ、わが子のかおり。【主】が祝福された野のかおりのようだ。
27:28 神がおまえに天の露と地の肥沃、豊かな穀物と新しいぶどう酒をお与えになるように。
27:29 国々の民はおまえに仕え、国民はおまえを伏し拝み、おまえは兄弟たちの主となり、おまえの母の子らがおまえを伏し拝むように。おまえをのろう者はのろわれ、おまえを祝福する者は祝福されるように。」

ヤコブは母のすゝめに従って、はなはだしい罪を犯しました。ヤコブは後に実際に長子の権利を得ましたけれども、それと共に恐るべき煩悶と苦痛をなめなければなりませんでした。

彼の後の生涯をみますと、
① 彼は、自分を殺そうとする兄エサウの顔を避けて逃亡した(27:41~46)。
② 彼は、伯父のラバンに欺かれ、二十年間酷使された(31:36~43)。
③ 二十年間の労苦の後、密かにラバンのもとから逃げ出した(31:20)。
④ 長男ルベンのために、彼の面目はつぶされた(35:22)。
⑤ シメオンとレビの暴虐によって辱しめを受けた(34章)。
⑥ 故郷に帰る途中、愛妻ラケルを失った(35:15~21)。
⑦ 十人の子どもたちに欺かれて、愛子ヨセフと別れなければならなかった(37章)。
⑧ ききんのためにエジプトに逃れて、他国で死んだ。

ヤコブの生涯は実に恐ろしい生涯です。彼は心霊的に大いに祝福されたけれども、このような苦難が次から次へと続く生涯を送ったのは、彼の欺まんの結果です。彼は自分が蒔いたところを刈り入れたのです。

27章21節で、「おまえにさわってみたい。」とイサクは言っています。これは信仰ではなく、感覚によって歩むことを意味しています。信仰の浅い信者は、神のみことばによって判断せず、神の愛や恵みを感じるかどうかによって判断しようとします。感情や感覚によって歩むから、上がり下がりのある不安定な生活をするのです。私たちは、神のみことばに立った信仰によって歩むべきです。

(5)エサウの敗北(30~40節)

創 27:30 イサクがヤコブを祝福し終わり、ヤコブが父イサクの前から出て行くか行かないうちに、兄のエサウが猟から帰って来た。
27:31 彼もまた、おいしい料理をこしらえて、父のところに持って来た。そして父に言った。「お父さんは起きて、子どもの獲物を召し上がることができます。あなたご自身が私を祝福してくださるために。」
27:32 すると父イサクは彼に尋ねた。「おまえはだれだ。」彼は答えた。「私はあなたの子、長男のエサウです。」
27:33 イサクは激しく身震いして言った。「では、いったい、あれはだれだったのか。獲物をしとめて、私のところに持って来たのは。おまえが来る前に、私はみな食べて、彼を祝福してしまった。それゆえ、彼は祝福されよう。」
27:34 エサウは父のことばを聞くと、大声で泣き叫び、ひどく痛み悲しんで父に言った。「私を、お父さん、私も祝福してください。」
27:35 父は言った。「おまえの弟が来て、だましたのだ。そしておまえの祝福を横取りしてしまったのだ。」
27:36 エサウは言った。「彼の名がヤコブというのも、このためか。二度までも私を押しのけてしまって。私の長子の権利を奪い取り、今また、私の祝福を奪い取ってしまった。」また言った。「あなたは私のために祝福を残してはおかれなかったのですか。」
27:37 イサクは答えてエサウに言った。「ああ、私は彼をおまえの主とし、彼のすべての兄弟を、しもべとして彼に与えた。また穀物と新しいぶどう酒で彼を養うようにした。それで、わが子よ。おまえのために、私はいったい何ができようか。」
27:38 エサウは父に言った。「お父さん。祝福は一つしかないのですか。お父さん。私を、私をも祝福してください。」エサウは声をあげて泣いた。
27:39 父イサクは答えて彼に言った。「見よ。おまえの住む所では、地は肥えることなく、上から天の露もない。
27:40 おまえはおのれの剣によって生き、おまえの弟に仕えることになる。おまえが奮い立つならば、おまえは彼のくびきを自分の首から解き捨てるであろう。」

エサウは自分の失敗の故に、祝福を得られなかった。彼は長子の権利を軽んじた故に、長子の祝福を得られなかったのです。
神からの特権を軽んじることは、祝福を失うことを意味しています。
これに比べ、ヤコブはエサウをだましたにも拘らず、彼が長子の権利を受けたのは驚くべきことです。

ヤコブの祝福(28、29節)は四つあります。

① 天の露(霊的祝福)
② 地の肥沃、豊かな穀物と新しいぶどう酒(物質的祝福)
③ 世界の国々を支配すること
④ その親族を統治すること

これに対して、39、40節は、エサウに対する祝福というよりは、むしろのろいの預言です。
① 地は肥えることなく
② 上から天の露もない
③ 剣によって生き、弟に任える。

これらはみな、エサウの子孫、すなわちエドム人によって成就しました。私たちが特に注意すべきことは、エサウの敗北の原因はヤコブの詐欺のためではなく、ヤコブが特別に母に愛せられて、祝福を受けられるように助けられたためでもなく、またヤコブが神の特別な選びを受けていたためでもなく、エサウ自身が長子の権利(責任)を軽んじたから、その祝福(特権)を失ったのです。

これは今日でも同じです。多くの人は、自分の責任を負おうとしないで、祝福(特権)を得たいと思っていますが、特権は責任を果たした結果与えられるものです。契約の責任を捨てて、契約の恵みを得ることはできません。

(6)ヤコブの罪の収穫の始め(41節)

創 27:41 エサウは、父がヤコブを祝福したあの祝福のことでヤコブを恨んだ。それでエサウは心の中で言った。「父の喪の日も近づいている。そのとき、弟ヤコブを殺してやろう。」

ヤコブは欺いたため、兄エサウの恨みをひき起こした。エサウは心の中で「父の喪の日も近づいている。そのとき、弟ヤコブを殺してやろう。」と言ったが、ついにそのことばが口に出て、リベカにも聞こえた。 人はまず心に思い、次に口に言い、そして行動に現わすものです。

一般に人の心の中で思う悪は、次のようなものです。

① 無神論、あるいは神を拒否すること
「心の中で、神はいないと言っている。」(詩篇14:1)

② 罪の結果の否定
「彼は心の中で言う。『私はゆるぐことがなく、代々にわたって、わざわいに会わない。』」(詩篇10:6)
「彼は心の中で言う。『神は忘れている。顔を隠している。彼は決して見はしないのだ。』」(詩篇10:11)
「なぜ、悪者は、神を侮るのでしょうか。彼は心の中で、あなたは追い求めないと言っています。」(詩篇10:13)

③ 高慢
「ハマンは心のうちで思った。『王が栄誉を与えたいと思われる者は、私以外にだれがあろう。』」(エステル記6:6)

④ 不信仰
「アプラハムは‥‥心の中で言った。『百才の者に子どもが生まれようか。』」(創世記17:17)

⑤ 恐怖
「ダビデは心の中で言った。『私はいつか、いまに、サウルの手によって滅ぼされるだろう。‥‥』」(サムエル記第一27:1)

⑥ 快楽
「私は心の中で言った。『さあ、快楽を味わってみるがよい。楽しんでみるがよい。』」(伝道者の書2:1)

⑦ 殺人
「エサウは心の中で言った。『父の喪の日も近づいている。そのとき、弟ヤコブを殺してやろう。』」(創世記27:41)

⑧ 怠慢
「それが悪いしもべで、『主人はまだまだ帰るまい。』と心の中で思い」(マタイ24:48)

エサウは、父がヤコブに与えた祝福のためにヤコブを憎みました。これは、人間の生来の古い性質です。
カインもアベルが祝福されるのをみて憎み、
サウルもダビデが祝福されるのをみてねたみ、
放蕩息子の兄は弟が祝福されるのをみて怒りました。
人間は、神に祝福された人を見ると、同じ祝福を欲しいと思うか、そうでなければ、祝福された人に害を加えようとするのが常です。

(7)リベカの罪の収穫の始め(42~46節)

創 27:42 兄エサウの言ったことがリベカに伝えられると、彼女は使いをやり、弟ヤコブを呼び寄せて言った。「よく聞きなさい。兄さんのエサウはあなたを殺してうっぷんを晴らそうとしています。
27:43 だからわが子よ。今、私の言うことを聞いて、すぐ立って、ハランへ、私の兄ラバンのところへ逃げなさい。
27:44 兄さんの憤りがおさまるまで、しばらくラバンのところにとどまっていなさい。
27:45 兄さんの怒りがおさまり、あなたが兄さんにしたことを兄さんが忘れるようになったとき、私は使いをやり、あなたをそこから呼び戻しましょう。一日のうちに、あなたがたふたりを失うことなど、どうして私にできましょう。」
27:46 リベカはイサクに言った。「私はヘテ人の娘たちのことで、生きているのがいやになりました。もしヤコブが、この地の娘たちで、このようなヘテ人の娘たちのうちから妻をめとったなら、私は何のために生きることになるのでしょう。」

リベカはエサウがヤコブを殺そうと決心したのを聞いて驚き、急いでヤコブを遠くのカランに逃がそうとしました。これは、リベカが自ら蒔いた種の収穫の始めです。
44節の「しばらく」は、数日を意味する言葉ですから、彼女は遠からずして再会することを期待していたと思われます。しかし、ついに彼女は生存中にヤコブに会うことができませんでした。
ここでもリベカの二面性が見えています。ヤコブに対しては、兄の怒りのために逃げよと言い、イサクに対しては、ヤコブにへテの女から妻をめとらないで、親族のうちより妻を求めるためにカランに行かせると言っています。
リベカは賢い人でしたが、ウソが彼女の欠点であり、罪です。聖書は厳正に罪悪をはばからず指摘しています。

この章には、信者の経験として、はなはだ卑劣な偽善、虚偽、憎悪、さらに内なる動機と様々な恥ずべきことが記されています。しかしその中にも、神の統轄されている恩寵が一貫して流れていることが分かります。

(以上、創世記27章)

「聖書の探求」の目次
(聖書箇所は【新改訳改訂第3版】)