聖書の探求(028) 創世記29,30章 ヤコブの結婚

28章までのヤコブは両親の保護のもとにいましたが、29章からは一人前の大人としてのヤコブが描かれています。29章の主題は、ヤコブの結婚です。30章は29章の続きです。

(三人の族長たちの生涯の特質)

① アブラハムの生涯の特質は、信仰で、アブラハムには信仰の霊が見られます。
② イサクの生涯の特質は、子たることで、イサクには子たる霊が見られます。
③ ヤコブの生涯の特質は、奉仕で、ヤコブには奉仕の霊が見られます。

ヤコブの奉仕には、次のものがあります。
イ を得るための奉仕(29:1~25)
ロ を得るための奉仕(29:26~30:24)
ハ 財産を得るための奉仕 (30:25~43)

〔29章の概要〕

1~14節 ラケルに導かれた経緯
15~30節 ヤコブの結婚
・15~20節 ラケルのために働くヤコブ
・21~25節 レアとの結婚
・26~30節 ラケルとの結婚
31~35節 レアの出産(四人、ルベン、シメオン、レビ、ユダ)

〔30章の概要〕

1~24節 ヤコブの子どもたち
25~43節 ヤコブの勤労

〔ヤコブの結婚〕

1、神に選ばれたしもべとしての奉仕(1~14節)

創 29:1 ヤコブは旅を続けて、東の人々の国へ行った。
29:2 ふと彼が見ると、野に一つの井戸があった。そしてその井戸のかたわらに、三つの羊の群れが伏していた。その井戸から群れに水を飲ませることになっていたからである。その井戸の口の上にある石は大きかった。
29:3 群れが全部そこに集められたとき、その石を井戸の口からころがして、羊に水を飲ませ、そうしてまた、その石を井戸の口のもとの所に戻すことになっていた。
29:4 ヤコブがその人たちに、「兄弟たちよ。あなたがたはどこの方ですか」と尋ねると、彼らは、「私たちはハランの者です」と答えた。
29:5 それでヤコブは、「あなたがたはナホルの子ラバンをご存じですか」と尋ねると、彼らは、「知っています」と答えた。
29:6 ヤコブはまた、彼らに尋ねた。「あの人は元気ですか。」すると彼らは、「元気です。ご覧なさい。あの人の娘ラケルが羊を連れて来ています」と言った。
29:7 ヤコブは言った。「ご覧なさい。日はまだ高いし、群れを集める時間でもありません。羊に水を飲ませて、また行って、群れをお飼いなさい。」
29:8 すると彼らは言った。「全部の群れが集められるまでは、そうできないのです。集まったら、井戸の口から石をころがし、羊に水を飲ませるのです。」
29:9 ヤコブがまだ彼らと話しているとき、ラケルが父の羊の群れを連れてやって来た。彼女は羊飼いであったからである。
29:10 ヤコブが、自分の母の兄ラバンの娘ラケルと、母の兄ラバンの羊の群れを見ると、すぐ近寄って行って、井戸の口の上の石をころがし、母の兄ラバンの羊の群れに水を飲ませた。
29:11 そうしてヤコブはラケルに口づけし、声をあげて泣いた。
29:12 ヤコブが、自分は彼女の父の親類であり、リベカの子であることをラケルに告げたので、彼女は走って行って、父にそのことを告げた。
29:13 ラバンは、妹の子ヤコブのことを聞くとすぐ、彼を迎えに走って行き、彼を抱いて、口づけした。そして彼を自分の家に連れて来た。ヤコブはラバンに、事の次第のすべてを話した。
29:14 ラバンは彼に、「あなたはほんとうに私の骨肉です」と言った。こうしてヤコブは彼のところに一か月滞在した。

ヤコブは欠点の多い人間であったけれども、神が選ばれたしもべです。彼はイスラエルの先祖となるべき子を生む妻をめとるために遣わされたのです。
イサクの妻リベカを捜しに遣わされたアブラハムのしもべ(24章)と比較してみましょう。アブラハムのしもべは、その出発においてヤコブとはなはだ異なっているばかりでなく、彼は祈り深く、神を礼拝し、神を崇め、成功した時にも神に感謝し、賛美しました。しかしヤコブは、無意識のうちに神に導かれているけれども、祈りも、礼拝も、感謝も、賛美もしませんでした。
後になって、自分が神に導かれていたことを悟りますが、この時には全く悟っていませんでした。彼は、信仰もきわめて幼稚でしたから、神に導かれる道も分からなかったのです。

しかし神は、このようなヤコブをも約束のとおりに絶えず共にあって導かれました。これは私たちにとっても同じです。今までの生涯において、神に導かれていると悟ることができなかったことも、よく思い返して考えると、十年も二十年も前から、生涯の細かいところまで神に導かれていたことを悟るのです。これは感謝なことですが、自分で神に導かれていることも意識していないことは、大きな損失です。

2、求婚者としての奉仕(15~20節)

創 29:15 そのとき、ラバンはヤコブに言った。「あなたが私の親類だからといって、ただで私に仕えることもなかろう。どういう報酬がほしいか、言ってください。」
29:16 ラバンにはふたりの娘があった。姉の名はレア、妹の名はラケルであった。
29:17 レアの目は弱々しかったが、ラケルは姿も顔だちも美しかった。
29:18 ヤコブはラケルを愛していた。それで、「私はあなたの下の娘ラケルのために七年間あなたに仕えましょう」と言った。
29:19 するとラバンは、「娘を他人にやるよりは、あなたにあげるほうが良い。私のところにとどまっていなさい」と言った。
29:20 ヤコブはラケルのために七年間仕えた。ヤコブは彼女を愛していたので、それもほんの数日のように思われた。

ラバンは妹リベカの時には、しもべが持ってきた財宝をもらうことによって直ぐに承知しましたが、何も持たないヤコブに対しては直ぐには承知しませんでした。

ラバンは狭滑な男で、またあまり富んでおらず、使用人も少なかったので、ヤコブを使って富を得ようと思ったのです。それ故に、娘を妻として与える代価としてヤコブを合計十四年間も働かせました。事実、それによってラバンは多くの富を得たのです(30:27~30)。

創 30:27 ラバンは彼に言った。「もしあなたが私の願いをかなえてくれるのなら……。私はあなたのおかげで、【主】が私を祝福してくださったことを、まじないで知っている。」
30:28 さらに言った。「あなたの望む報酬を申し出てくれ。私はそれを払おう。」
30:29 ヤコブは彼に言った。「私がどのようにあなたに仕え、また私がどのようにあなたの家畜を飼ったかは、あなたがよくご存じです。
30:30 私が来る前には、わずかだったのが、ふえて多くなりました。それは、私の行く先で【主】があなたを祝福されたからです。いったい、いつになったら私も自分自身の家を持つことができましょう。」

アブラハムのしもべはリベカを賜物として得たけれども、ヤコブは勤労の代価として妻を得たのです。しかしヤコブはラケルを愛していなかったのではありません(29:20)。

創 29:20 ヤコブはラケルのために七年間仕えた。ヤコブは彼女を愛していたので、それもほんの数日のように思われた。

3、罪を犯した者としての奉仕(21~25節)

創 29:21 ヤコブはラバンに申し出た。「私の妻を下さい。期間も満了したのですから。私は彼女のところに入りたいのです。」
29:22 そこでラバンは、その所の人々をみな集めて祝宴を催した。
29:23 夕方になって、ラバンはその娘レアをとり、彼女をヤコブのところに行かせたので、ヤコブは彼女のところに入った。
29:24 ラバンはまた、娘のレアに自分の女奴隷ジルパを彼女の女奴隷として与えた。
29:25 朝になって、見ると、それはレアであった。それで彼はラバンに言った。「何ということを私になさったのですか。私があなたに仕えたのは、ラケルのためではなかったのですか。なぜ、私をだましたのですか。」

ヤコブは父イサクを欺き、兄エサウから長子の権利を奪ったのですが、ここではラバンに欺かれました。
ヤコブはラケルと結婚するはずでしたが、ラバンは姉のレアを与えたのです。ヤコブは罪を犯した者として、その蒔いたものを刈り取らされるためにここで奉仕したのです(ガラテヤ6:7,8)。

ガラ 6:7 思い違いをしてはいけません。神は侮られるような方ではありません。人は種を蒔けば、その刈り取りもすることになります。
6:8 自分の肉のために蒔く者は、肉から滅びを刈り取り、御霊のために蒔く者は、御霊から永遠のいのちを刈り取るのです。

4、夫としての奉仕(26~30節)

創29:26 ラバンは答えた。「われわれのところでは、長女より先に下の娘をとつがせるようなことはしないのです。
29:27 それで、この婚礼の週を過ごしなさい。そうすれば、あの娘もあなたにあげましょう。その代わり、あなたはもう七年間、私に仕えなければなりません。」
29:28 ヤコブはそのようにした。すなわち、その婚礼の週を過ごした。それでラバンはその娘ラケルを彼に妻として与えた。
29:29 ラバンは娘ラケルに、自分の女奴隷ビルハを彼女の女奴隷として与えた。
29:30 ヤコブはこうして、ラケルのところにも入った。ヤコブはレアよりも、実はラケルを愛していた。それで、もう七年間ラバンに仕えた。

ヤコブはラバンの欺瞞を非常に怒ったけれども、今は何も持たず、なす術もないので、やむをえずラケルを妻にするために、さらに七年ラバンに仕えました。これもやはり罪の収穫です。

5、父としての奉仕(家庭の生活、29:31~30:24)

ヤコブは人を欺き、また人に欺かれて、多妻主義の結婚をしました。それ故、家庭には常に嫉妬と争いと、苦痛と悲哀とがありました。その家庭の苦痛は子どもの名前に表わされています。これを見ると、ラケルとレアの心の中がよく分かります。

① ルベン(見る、31,32節)
創 29:31 【主】はレアがきらわれているのをご覧になって、彼女の胎を開かれた。しかしラケルは不妊の女であった。
29:32 レアはみごもって、男の子を産み、その子をルベンと名づけた。それは彼女が、「【主】が私の悩みをご覧になった。今こそ夫は私を愛するであろう」と言ったからである。

レアの苦しみは、夫が自分を真実に愛してくれないことでした。しかし今、子どもが生まれたから、これからは愛してくれるであろう、と言ったところにレアの悩みが表われています。

② シメオン(聞く、33節)
創 29:33 彼女はまたみごもって、男の子を産み、「【主】は私がきらわれているのを聞かれて、この子をも私に授けてくださった」と言って、その子をシメオンと名づけた。

レアは、神が見、また聞いてくださったと信じたのです。しかし三二節で「今こそ夫は私を愛するであろう。」と期待したのに、「主は私がきらわれているのを聞かれて」と言っているのは、彼女の悲しみです。

③ レビ(結ぶ、34節)
創 29:34 彼女はまたみごもって、男の子を産み、「今度こそ、夫は私に結びつくだろう。私が彼に三人の子を産んだのだから」と言った。それゆえ、その子はレビと呼ばれた。

「今度こそ、夫は私に結びつくだろう」と言ったのは、彼女の苦しみを表わしています。

④ ユダ(ほめたたえる、賛美、35節)

夫はレアを愛しなかったけれども、彼女は「主をほめたたえよう。」と言いました。彼女の信仰が苦しみを賛美に変えたのです。「その誉れは、人からではなく、神から来るものです。」(ローマ2:29)

創 29:35 彼女はまたみごもって、男の子を産み、「今度は【主】をほめたたえよう」と言った。それゆえ、その子を彼女はユダと名づけた。それから彼女は子を産まなくなった。

⑤ ダン(審判、30:1~6節)
創 30:1 ラケルは自分がヤコブに子を産んでいないのを見て、姉を嫉妬し、ヤコブに言った。「私に子どもを下さい。でなければ、私は死んでしまいます。」
30:2 ヤコブはラケルに怒りを燃やして言った。「私が神に代わることができようか。おまえの胎内に子を宿らせないのは神なのだ。」
30:3 すると彼女は言った。「では、私のはしためのビルハがいます。彼女のところに入り、彼女が私のひざの上に子を産むようにしてください。そうすれば私が彼女によって子どもの母になれましょう。」
30:4 ラケルは女奴隷ビルハを彼に妻として与えたので、ヤコブは彼女のところに入った。
30:5 ビルハはみごもり、ヤコブに男の子を産んだ。
30:6 そこでラケルは、「神は私をかばってくださり、私の声を聞き入れて、私に男の子を賜った」と言った。それゆえ、その子をダンと名づけた。

ラケルは子どもがいないために苦しみ、嫉妬を起こしました。
ハムラビ法典によれば、妻に子がない場合、女奴隷をいれて子を得ることが定められていましたから、彼女はこの方法をとったものと思われます。そしてその子に「審判」という名前をつけたのは、これを神の正しい審判によるものとしたのです(参照49:16~18)。

創 49:16 ダンはおのれの民をさばくであろう、イスラエルのほかの部族のように。
49:17 ダンは、道のかたわらの蛇、小道のほとりのまむしとなって、馬のかかとをかむ。それゆえ、乗る者はうしろに落ちる。
49:18 【主】よ。私はあなたの救いを待ち望む。

⑥ ナフタリ(争い、7,8節)
創 30:7 ラケルの女奴隷ビルハは、またみごもって、ヤコブに二番目の男の子を産んだ。
30:8 そこでラケルは、「私は姉と死に物狂いの争いをして、ついに勝った」と言って、その子をナフタリと名づけた。

再び、女奴隷の子を生むことによって、姉と争って勝ったと言ったのは、この家庭に争いがあったことを示しています。

⑦ ガド(幸運、9~11節)
創 30:9 さてレアは自分が子を産まなくなったのを見て、彼女の女奴隷ジルパをとって、ヤコブに妻として与えた。
30:10 レアの女奴隷ジルパがヤコブに男の子を産んだとき、
30:11 レアは、「幸運が来た」と言って、その子をガドと名づけた。

レアは、この子が女奴隷から生まれたので、神が与えられたとは言わず、幸運であると言いました。

⑧ アセル(しあわせ、楽しみ、12,13節)
創 30:12 レアの女奴隷ジルパがヤコブに二番目の男の子を産んだとき、
30:13 レアは、「なんとしあわせなこと。女たちは、私をしあわせ者と呼ぶでしょう」と言って、その子をアシェルと名づけた。

しあわせによって、神をほめたたえました。

⑤ イッサカル(報酬、14~18節)
創 30:14 さて、ルベンは麦刈りのころ、野に出て行って、恋なすびを見つけ、それを自分の母レアのところに持って来た。するとラケルはレアに、「どうか、あなたの息子の恋なすびを少し私に下さい」と言った。
30:15 レアはラケルに言った。「あなたは私の夫を取っても、まだ足りないのですか。私の息子の恋なすびもまた取り上げようとするのですか。」ラケルは答えた。「では、あなたの息子の恋なすびと引き替えに、今夜、あの人があなたといっしょに寝ればいいでしょう。」
30:16 夕方になってヤコブが野から帰って来たとき、レアは彼を出迎えて言った。「私は、私の息子の恋なすびで、あなたをようやく手に入れたのですから、私のところに来なければなりません。」そこでその夜、ヤコブはレアと寝た。
30:17 神はレアの願いを聞かれたので、彼女はみごもって、ヤコブに五番目の男の子を産んだ。
30:18 そこでレアは、「私が、女奴隷を夫に与えたので、神は私に報酬を下さった」と言って、その子をイッサカルと名づけた。

ガドとアセルが生まれた時には、神の賜物と言いませんでしたが、この子はレア自身から生まれたので神の御名を用いています。これは彼女が神を信じているしるしです。

④ ゼブルン(尊ぶ、あるいは住む、19,20節)
創 30:19 レアがまたみごもり、ヤコブに六番目の男の子を産んだとき、
30:20 レアは言った。「神は私に良い賜物を下さった。今度こそ夫は私を尊ぶだろう。私は彼に六人の子を産んだのだから。」そしてその子をゼブルンと名づけた。
30:21 その後、レアは女の子を産み、その子をディナと名づけた。

長い間、神をほめたたえて待っていたが、今より夫は自分を尊び、共に住むだろうと言いました。

⑪ ヨセフ(加えられる、22~24節)
創 30:22 神はラケルを覚えておられた。神は彼女の願いを聞き入れて、その胎を開かれた。
30:23 彼女はみごもって男の子を産んだ。そして「神は私の汚名を取り去ってくださった」と言って、
30:24 その子をヨセフと名づけ、「【主】がもうひとりの子を私に加えてくださるように」と言った。

ヨセフはラケルに生まれた初子です。彼女には、ほかにべニヤミンが生まれます。

6、ヤコブのしもべとしての奉仕(30:25~36)

創 30:25 ラケルがヨセフを産んで後、ヤコブはラバンに言った。「私を去らせ、私の故郷の地へ帰らせてください。
30:26 私の妻たちや子どもたちを私に与えて行かせてください。私は彼らのためにあなたに仕えてきたのです。あなたに仕えた私の働きはよくご存じです。」
30:27 ラバンは彼に言った。「もしあなたが私の願いをかなえてくれるのなら……。私はあなたのおかげで、【主】が私を祝福してくださったことを、まじないで知っている。」
30:28 さらに言った。「あなたの望む報酬を申し出てくれ。私はそれを払おう。」
30:29 ヤコブは彼に言った。「私がどのようにあなたに仕え、また私がどのようにあなたの家畜を飼ったかは、あなたがよくご存じです。
30:30 私が来る前には、わずかだったのが、ふえて多くなりました。それは、私の行く先で【主】があなたを祝福されたからです。いったい、いつになったら私も自分自身の家を持つことができましょう。」
30:31 彼は言った。「何をあなたにあげようか。」ヤコブは言った。「何も下さるには及びません。もし次のことを私にしてくださるなら、私は再びあなたの羊の群れを飼って、守りましょう。
30:32 私はきょう、あなたの群れをみな見回りましょう。その中から、ぶち毛とまだら毛のもの全部、羊の中では黒毛のもの全部、やぎの中ではまだら毛とぶち毛のものを、取り出してください。そしてそれらを私の報酬としてください。
30:33 後になってあなたが、私の報酬を見に来られたとき、私の正しさがあなたに証明されますように。やぎの中に、ぶち毛やまだら毛でないものや、羊の中で、黒毛でないものがあれば、それはみな、私が盗んだものとなるのです。」
30:34 するとラバンは言った。「そうか。あなたの言うとおりになればいいな。」
30:35 ラバンはその日、しま毛とまだら毛のある雄やぎと、ぶち毛とまだら毛の雌やぎ、いずれも身に白いところのあるもの、それに、羊の真っ黒のものを取り出して、自分の息子たちの手に渡した。
30:36 そして、自分とヤコブとの間に三日の道のりの距離をおいた。ヤコブはラバンの残りの群れを飼っていた。

ヤコブはすでに妻子をもっていましたが、何一つ財産をもっていませんでした。しかしここで彼は、帰国すると言い出しました(25節)。
ラバンは自分では神を信じなかったけれども、ヤコブのために祝福されていることをよく知っていたから、ヤコブが去るのを好みませんでした(27,28節)。ヤコブは「いったい、いつになったら私も自分 自身の家を持つことができましょう。」(30節)と言って、とどまることを否みましたが、ついに報酬を約束して、再びラバンに仕えることになりました。けれどもラバンは、この度もヤコブを欺きました。(35節) ヤコブは妻のことについてと、財産のことについて、二度ラバンに欺かれました。それはちょうど、ヤコブが兄エサウを二度欺いたのと同じです。

7、ヤコブの古い性質での奉仕(37~43)

創 30:37 ヤコブは、ポプラや、アーモンドや、すずかけの木の若枝を取り、それの白い筋の皮をはいで、その若枝の白いところをむき出しにし、
30:38 その皮をはいだ枝を、群れが水を飲みに来る水ため、すなわち水ぶねの中に、群れに差し向かいに置いた。それで群れは水を飲みに来るときに、さかりがついた。
30:39 こうして、群れは枝の前でさかりがついて、しま毛のもの、ぶち毛のもの、まだら毛のものを産んだ。
30:40 ヤコブは羊を分けておき、その群れを、ラバンの群れのしま毛のものと、真っ黒いものとに向けておいた。こうして彼は自分自身のために、自分だけの群れをつくって、ラバンの群れといっしょにしなかった。
30:41 そのうえ、強いものの群れがさかりがついたときには、いつもヤコブは群れの目の前に向けて、枝を水ぶねの中に置き、枝のところでつがわせた。
30:42 しかし、群れが弱いときにはそれを置かなかった。こうして弱いのはラバンのものとなり、強いのはヤコブのものとなった。
30:43 それで、この人は大いに富み、多くの群れと、男女の奴隷、およびらくだと、ろばとを持つようになった。

ヤコブは群のうちから、「ぶち毛とまだら毛のもの全部、羊の中では黒毛のもの全部、やぎの中ではまだら毛とぶち毛のものを、取り出してください。そしてそれらを私の報酬としてください。」と言い、ラバンもこれを承認しましたが、ラバンはヤコブが言った種類のものをその日のうちに、自分の息子たちに渡して他に移してしまったのです(34節)。残った白の羊と黒のやぎの中から、まだらやぶち毛のものが生まれるには長い期間が必要だから、普通の方法では容易にヤコブは財産をつくることができません。
そこでヤコブはある方法を考え、家畜の壮健なものが子を生む時には、特にまだら毛が生まれるように計画しました。そのために弱いものはラバンのものとなり、強いものはヤコブのものとなりました。
ヤコブは長い間の牧畜経験から、家畜がはらむ時その見るものによって大きな影響を受けることを知っていました。人間にとっても、妊娠中の婦人が残酷不潔な絵や映画を見ることによって、胎児の性質に非常に悪い感化を及ぼすことはよく知られています。ヤコブはこのような自然の法則を利用して利己的な計画を立て、ラバンの計略の裏をかいたのです。彼は父イサクを欺した時と同じ古い性質でこれを行ないました。神は、ヤコブがその古い性質を神の前に明け渡すまで、彼を苦しめ、懲らしめ、教えられ、そして守られたのです。

(以上、創世記29,30章、聖書箇所は【新改訳改訂第3版】を引用しました。)

上の写真は、アメリカのthe Providence Lithograph Companyにより1900年に出版されたバイブルカードより、「Jacob with Laban and his Daughters(ラバンと彼の娘たちと共にいるヤコブ)」(イギリスのDulwich Picture Gallery蔵、Wikimedia Commonsより)

〔あとがき〕

最近、聖書の探求を一号からお求め下さる方が増えてきました。バックナンバーをご希望の方はお求め下さい。
今のうわついた世の中で、聖書を一生けん命に探求される方が少しずつでも増えてこられたことは、重大なことですし、また本当にうれしい兆です。主は「読む者さとれ」(文語訳マタイ二四・一五)と言われました。
「聖書読みの聖書知らず。」にならないようにしたいものです。私たちの教会では最近、エズラ記を学んでいますが、エズラの力の秘密は彼が神の律法に精通していたことにあるのを強く教えられています。
(1986.7.1)

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