書籍紹介 「子どもの体力と創造力」

まなべあきら著 B6 155頁

スポーツがさかんな現代なのに、なぜ、朝からあくびする子、家の中に閉じこもる子、姿勢がしっかりしないグニャグニャの子、意欲のない子が多いのか?この本は、現代の子どもたちの体力と創造力に焦点を合わせています。

目次

1章 子どもの体に何かが起きている
2章 幼児にはマラソンより、ごっこ遊び
3章 皮膚の鍛錬
4章 足と腰
5章 意欲と体力
6章 運動遊びのさせ方
7章 体力と活力づくり
8章 活力は創造力を生む
9章 創造力を育てる
10章 親の態度と働きかけ
11章 創造力の乏しい子に対する対策
12章 家庭でこんなことをやってみよう

はじめに

教会学校の現場に立つようになってから二十年、また近頃ではあちこちの教会学校の先生方や教会の幼稚園の先生方と話し合う機会が与えられ、これらの中から気づかされることは、現代の子どもたちに何か、ただならない異常な変化が起きていることです。朝からあくびをする子ども、家の中に閉じこもりがちの子ども、姿勢がしっかりしないグニャグニャの子ども、扁平足の子ども、極度にギャアギャア叫ぶ子どもなどなど、以前にはあまり見られなかった子どもの症状が急速に増えていることです
確かに、二十年前に比べると、家庭でも幼稚園や保育園でも子どもの健康管理と体力づくりには猛烈さを感じさせるほど熱心になりました。真冬のはだかマラソンからはだしの生活、乾布まさつなど、特に、裸保育に力をいれている園が多くなりました。また親も子どもがちょっとおかしいと、すぐに病院にかけこむことができるし、体力づくりにスポーツクラブに通わせているケースも非常に多く見かけます。
しかし子どもたちの現状は、これらのあらゆる努力を嘲笑うかのように逆行しています。それは一体なぜでしょうか。この本では、それらの点を考えつつ、健全な子どもの体力づくりについて考えてみたいと思います。これからも子どもたちの異常な変化が著しくなるにしたがって、世の中の体力づくりへの取り組み方はますますエスカレートし、商業化していくでしょう。しかし賢い親たちは、これらの宣伝文句に迷わされないで、自分たちの生活そのものを見直さなければなりません。そしてそこに子どもたちの体力づくりの原点があることに気づかなければなりません。
今や、人類は子どもから大人まて頻死の危機的状態にあると言えるでしょう。自殺、非行、暴力、麻薬という人格的問題から自己表現が十分にできない自閉的な問題そして幼児期のハイハイの不足や手足の発育不十分からくる不器用さ、歩くことを好まない生活からくる背筋力の弱化や扁平足の問題、さらに防禦に対する反射神経の鈍化など、挙げれば限りがないほどです。この事態はまさに、人間の体に現れ始めた人間の危機を示しています ある教会の先生から 「私たちは一生懸命にお話をしているのに、なぜ子どもたちはお話を聞こうとしないのでしょうか。」と質問されました。それはお話に工夫が足りないとかといった問題ではなく、子どもたちが人格的にも体力的にも お話を聞く状態にまで達していないからです彼らは一〇分か、一五分もじっと坐っていることができないのです。また画面に現われてチラチラ動くものにしか興味を示さない、不安定型の自閉的な人間になってしまっているからです。このような子どもたちは、内に溜ってくる欲求不満をはらすために、突然叫んだり、暴力をふるったり、非行に走ったりするのです。
子どもの体力づくりを考えるとき、筋肉を動かすスポーツをするだけではいけないことが分かります。そこには人格的な意欲や、心の平安や信頼感それに興味や自主性も必要です。これらは赤ちゃんのときから養ってくるものです。ですからある年令になって、スポーツ教室に通わせればよいというものではないことがお分かりいただけるでしょう。
この小さい本が、子どもたちの人格と体力づくりの一助となれば幸いです。なお、本書は、先に発行しました、「家庭でできる創造的人格教育と、「勉強ができる子できない子」に続くものとして発行致しました。願くは、これから成長していく多くの子どもたちや若者が、人格的創造力において、また学力において、さらに体力において、調和のとれた健全な成長を遂げていくことを期待し、祈るものです

一九八八年 八月一五日
著者 まなべ あきら

以下、一部抜粋

一章 子どもの体に何かが起きている

子どもの体の異常な変化についての問題をテレビや新聞が取り上げ始めたのは、今から約一〇年前の一九七六年頃からです手指の不器用さ、箸が使えない子、鉛輩が正しく持てない子、ヒモが結べない子、ナイフでリンゴの皮のむけない子など、全国的に調査がすゝむにしたがって、その様子がはっきりしてきました。
それはガンのように、手指の不器用さだけでなく、体の他の面にも人格的にも様々な現象となって現われてきている実体が明らかになってきました。ころぶとすぐに骨が折れてしまう子、高血圧の子、ぜんそく気味の子、すぐに肩がこる子、朝からあくびして眠りたい子、首筋が痛い子、いわゆる半健康半病人の子の姿が浮き彫りになってきたのです。
一つのことに集中できない子、興味や意欲のない子、親の陰にばかりかくれて自主性のない子など、人格的にも大きな問題点が挙げられています。

体格、体力はほんとうによくなったのか?

文部省では毎年全国的に生徒の体格と体力を調べています。しかしこれは学校によって測定方法がまちまちであったり、いいかげんな測定である場合もありますから、これで正確に判断することはできないと思いますが、現状ではこのデータ以外に全国的な調査はありませんので、これによって判断する以外に方法がありません。
細かいデータをご紹介するとかえって煩雑になるばかりですので、興味ある方は専門誌をごらんいただくことにして、ここではそこから分かることだけをご紹介したいと思います。
まず、身長は男女ともに年々大きくなっています。特に男女共通して大きくなっているのは身長だけです。このほかに、男子は体重は増加していますが、座高は足ぶみ状態て 胸囲は減る傾向にあります。女子の体重と胸囲と座高も足ぶみ状態です。しかしこれは全国の平均値による傾向です。最近、目立つようになってきたのは、太りすぎの子どもとやせすぎの子どもの両極端化です。こういう現象は全国の平均値を見ていても分からない問題点です。
そこで、現代人は体格が良くなってきているのかという質問に対しては、確かに昭和四〇年頃から、男女共に身長は伸びてきました。身長が伸びたことを体格が良くなったと見るなら、そう言えないこともないかもしれませんが、実際は決してそうは言えないような気がします。
次に、体力について考えてみましょう。文部省は昭和三九年から 体力診断テスト、運動能力テストを毎年全国的に実施しています。そのうち中学三年生の垂直跳と五〇メートル走(一貫してテストが実施されたのはこの二種目しかない)をみますと、男女共にその成績は良くなっています。ところが運動能力テストの合計点をみると、昭和四六、七年(一九七一、二年)を境にして、男女共に増加していたものが低下し始めています。垂直跳と五〇メートル走の二種目では伸びていても、総合的には低下してきているということです。
これはどこに原因があるのでしょうか? そこで中学三年より一年すゝんだ高校一年生のデータをみますと、高校一年生で男女共、身長と共に年々増えているものは、垂直跳と握力と走り幅とびの三種目だけです。逆に男女共自立って低下しているのが背筋力です。この背筋力は高校三年生や大学一年生では、昭和四七年頃には四〇年頃に比べて、男子では一〇キログラム、女子でも五キログラムも低くなっています。
この背筋力は、背骨を支えて、しつかり直立姿勢をとらせる働きをしていますこの背筋力の低下が、背筋を伸ばして椅子に坐ることができない子や、すぐにグニャグニャになってしまう子の原因です。また背筋力が低下してくると、体を動かして仕事をしたり、運動したりするのが億劫になったり、長く立っていたり、歩くのを嫌がる原因にもなってきます。
問題は、この背筋刀の低下が、政府の体力づくり運動のかけ声の中で起きており、学校では体育の授業以外に、部活でスポーツを行ない、町ではスイミングクラブやスポーツクラブ、少年野球クラブ、サッカークラブなど、全国的に過剰になっている中で起きていることです。それ故、これはもはや学校やスポーツクラブで解決できる問題ではないということがお分かりいただけるでしょう。これらの問題は、子どもたちの遊ぶ生活環境と生活の仕方の変化によって起きてきたものですから、両親がそのことに気づいて、生活を変えていく以外に解決する方法がありません。

以上、一部抜粋