書籍紹介 「父と子のふれ合いの秘訣」

まなべあきら著
新書判 57頁

この本が小さいのは、そのエッセンスだけを記しているからです。忙しいお父さんにも十分に読んでいただけるように配慮しました。

目次

1章 「知られざる父」について話そう
2章 心のふれ合いをつくる叱り方
3章 言い訳は全部聞いてやろう
4章 ほめ言葉は一生続く
5章 人生の目標を教える
6章 短くてもその場で集中して
7章 幼児期に蓄えられるもの
8章 子どもの能力を引き出す方法
9章 愛をこめたしつけ
10章 子どもの自立の秘訣
11章 頭に幻を描いて実行

以下、一部抜粋


はじめに

「私は忙しいので、子どものことは家内にまかせています。」というお父さんが相当おられます。
しかし母親はやっばり母親で、父親の代わりをすることはできません。これを無理矢理続けていると、片方の翼だけで飛んでいる飛行機のように墜洛してしまいます。
墜落してしまった家庭を建て直すのは困難です。そうなる前に、父親としての役割を果していくほうが、ずっと楽しく、有意義です。そこで私は、忙しいお父さん方のために、わずかの時間で読めるように、エッセンスだけの本を書こうと決心しました。そして生まれたのがこの本です。この本は、電車に乗っている間でも、短い休み時間でも、十分に読むことができます。さらにもう一つ、あなたはこの本から短い時間でも十分に子どもと接触する方法を見つけ出すことができます。
この本は、非常に小さい本ですが、父と子の心のふれ合いのために、最も大切なことを記しています。何度も何度もお読みくださり、「私は忙しいから」と言い訳をしなくてもすむように、明るい心の交流のある家庭をつくり上げてください。

一九八四年一〇月二日
著者 まなべ あきら

一章  「知られざる父」 について話そう

「いまだかつて神を見たものはいない。父のふところにおられるひとり子の神が、神を説き明かされたのである。」 (ヨハネの福音書一・二八)
父なる神様は、私たちと交わろうとされて、御子イエス・キリストをお遣わしになりました。これによってご自分を明らかに示されたのです。これは、神と人との交わりには不可欠のことです。
親子が心のふれ合う交わりをするためにも、まず父親がどういう人間であるかを、子どもたちに知らせてやる必要があります。ところが、多くの父親はこのことに気づいていないようです。
子どもを行楽地に連れていくことが、父と子のコミュニケーションを保つ唯一の方法だと考えている父親がたくさんいます。これは親が勝手に考えていることです。確かに、子どもを行楽地に連れていくと、喜んでさわぎます。しかし父と子のコミュニケーションが深まったわけではありません。それは、食事をさせても、しばらくすると再びお腹をすかせるのと同じで、一向お互いの間に進歩がありません。行楽では、快楽的結びつきがあっても心の結びつきができないのです。
子どもたちが知りたいことは、もっとほかのことなのです。すなわら知らない自分の父について知りたいのです。あなたは、子どもたちに、あなた自身について、どれくらい話していますか。
子どもたちに、あなたの子どものころについて話してやってください。どんな遊びをしましたか。学校の成績はどうでしたか。運動会で選手に選ばれたこと、キャンプや山登りの経験、初めて自転車に乗れるようになった時の気持のよかったこと、初めて泳げるようになった時のうれしかったこと。必ず、子どもたちは、まばたきをしながらあなたの話を聞くでしょう。
子どもたちも小学上級生くらいになると、自分のお父さんとお母さんがどのように知り合ったのか、知りたがります。子どもたちにとって、これほど興味深いことはないのです。ですから夕食のあとなど、お茶を飲みながらでもそのことについて話してください。テレビを見るよりも楽しそうに聞いてくれるはずです。そのころのお母さんは、若々しくて、あなたの目にまぶしく映ったこと、心がときめいたこと、二人でレストランに行ったこと、ハイキングに出かけたこと、二人で一緒にどんなことを祈ったのかを話してやってください。これらのことがあって、あなたの話を聞いている子どもたちが生まれたのですから、子どもたちにはこれ以上自分と密接な話はないのです。聞きたいのは当然でしょう。また、両親がどのように愛し合い、結婚するに至ったかを話してやることは、これから同じ道を歩もうとする子どもたちへの良い指針にもなるのです。
「そんなことは恥しくて‥‥‥‥。」
と照れるお父さんも多いのですが、これは大事なことで、ぜひ子どもには話しておく必要があるのです。両親が正しく愛し合って、自分が生まれたのだということを知らせておくことは、彼らに愛し合うことの大切さを教えることになるのです。子どもは決してあなたをひやかしたりはしません。真剣に聞きます。彼らは自分の胸のうちで、自分にあてはめて聞いているからです。
子どもから
「どうしてお父さんは、お母さんと結婚したの。」
ときかれたら、ごまかさないで、
「お母さんが、すばらしい人だったからだよ。」
と言ってください。そして、
「おまえも、すばらしい人になってごらん。きっと、神さまがよい人をおまえに会わせてくださるよ。」
と、まじめに心をこめて言ってやりましょう。こういうことを、ないがしろにしたり、忘れたりしてはいけないと思います。
お父さんたちは自分以外の多くのものを子どもたちに与えてきました。しかしそれらは本当に子どもたちが欲しているものではないのです。あなたの子どもたちは、知られざるあなたの姿を知りたいのです。
ときには、子どもたちを宇宙の世界に連れて行ってやってください。子どもたちは未知の世界についての話を聞くのが好きです。宇宙は今どうなっているのか。温度は何度くらいなのか。誤って宇宙船の外に出たらどうなるのか。光は何年くらいかかって地球にとどくのか。今も新しい星が造られているのか。星と星はどんなヒモで結ばれているのか。太陽の温度は何度くらいか。こんなことはスペースシャトルに乗って調べてみなくても、一寸調べれば分かることです。子どもたちに宇宙旅行を楽しませてやってください。
私は機会あるごとに、イエス・キリストの再臨のときの話を子どもたちにします。そのときほど子どもたちが真剣に話を聞くときはありません。彼らはイエス様が来られたとき、自分はどうなるのか、生きていたら、死んでいたら、と次々と知りたいことがいっばいなのです。その要求を満たしてやらなければなりません。
また、あなたの専門の仕事について話してやることも子どもにとっては興味深いことなのです。私は昔、物理化学を学んだことがありますので、分子の世界や原子の世界について話して聞かせることがあります。目に見えない世界について話すことは難しいことですが、何回も何回も話しているうちに、話し方も上手になってきます。分子や原子の世界については大人も興味を示してくれます。
いつもお金の話しだけでなく、お父さんの仕事はどんな内容なのか、どこで人々の役に立っているのかを話してやってください。こういう楽しい話が、家庭の中であまりされていないのではないでしょうか。専門的な話でも分かりやすく話してやれば、子どもたちはあなたの前に釘づけになるでしょう。それだけではありません。話している際中に、あなた自身が新発見をするかもしれません。自分の仕事に誇りを感じたり、理解を深めたりするのです。
もっと、子どもたちが知らない、あなたの世界を、子どもたちに話してやってください。子どもたちの興味はそこにあるのです。少なくとも一週間に一度は、このような話をする時を持ちたいものです。一週間に一度がどうしても困難な人は、一ケ月に一度でもいいでしょう。必ず、子どもたちとあなたとの関係は変わってきます。良いしつけをする前に、よいコミュニケーションをつくることが必要なのです。

以上、一部抜粋