聖書の探求(037b) 創世記47章 ヤコブのエジプトでの生活

ヤコブはエジプトで17年生活しています(28節)。その間のことをこの章の中に短縮して記しています。

1.パロとヤコブの会見(パロの承諾を得ること、1~12節)

ヨセフは家族の住む所を決めましたが、これを実行するには、エジプト人との間にうらみや争いが生じるかもしれないと思いました。わずか七十人でも、後に羨望の的になる可能性がありましたので、ヨセフははるか将来のことを考えて、パロの承諾と好意を得たのです。

(1) ヨセフは自らパロのもとに行き、家族と家畜がカナンの国からエジプトに来て、今ゴシェンの地にいることを報告しました(1節)。

創 47:1 ヨセフはパロのところに行き、告げて言った。「私の父と兄弟たちと、羊の群れ、牛の群れ、そして彼らのものすべてがカナンの地からまいりました。そして今ゴシェンの地におります。」

(2) 兄弟のうち五人を代表に選び、パロに会わせて、パロの質問に対して予め教えておいたように彼らの職業が羊飼いであると答えさせました。これは家族をゴシェンの地に住まわせるようにパロの快諾を得るための計画でした(2~6節)。

47:2 彼は兄弟の中から五人を連れて、パロに引き合わせた。
47:3 パロはヨセフの兄弟たちに尋ねた。「あなたがたの職業は何か。」彼らはパロに答えた。「あなたのしもべどもは羊を飼う者で、私たちも、また私たちの先祖もそうでございます。」
47:4 彼らはまたパロに言った。「この地に寄留しようとして私たちはまいりました。カナンの地はききんが激しくて、しもべどもの羊のための牧草がございませんので。それでどうか、あなたのしもべどもをゴシェンの地に住ませてください。」
47:5 その後、パロはヨセフに言った。「あなたの父と兄弟たちとがあなたのところに来た。
47:6 エジプトの地はあなたの前にある。最も良い地にあなたの父と兄弟たちとを住ませなさい。彼らはゴシェンの地に住むようにしなさい。もし彼らの中に力のある者がいるのを知っていたら、その者を私の家畜の係長としなさい。」

(3) 最後に、ヨセフは父ヤコブをパロに紹介しました。パロは老人ヤコブをねんごろにもてなし、ヤコブの祝福を受けました。そしてゴシェンの地はへブル人の住む所として許されたのです。(7~12節)

47:7 それから、ヨセフは父ヤコブを連れて来て、パロの前に立たせた。ヤコブはパロにあいさつした。
47:8 パロはヤコブに尋ねた。「あなたの年は、幾つになりますか。」
47:9 ヤコブはパロに答えた。「私のたどった年月は百三十年です。私の齢の年月はわずかで、ふしあわせで、私の先祖のたどった齢の年月には及びません。」
47:10 ヤコブはパロにあいさつして、パロの前を立ち去った。
47:11 ヨセフは、パロの命じたとおりに、彼の父と兄弟たちを住ませ、彼らにエジプトの地で最も良い地、ラメセスの地を所有として与えた。
47:12 またヨセフは父や兄弟たちや父の全家族、幼い子どもに至るまで、食物を与えて養った。

このようにして、ユダヤ人が国家として建設する基礎づくりが始まったのです。ヨセフは家族をエジプトの最も肥沃な地に住まわせ、食物を無代価で与えました。主イエスも愛の特選の民に安息を与え、また霊の糧を与えられます。

2.ヨセフの政治的手腕(13~26節)

(1) 13~15節 銀を集める

創 47:13 ききんが非常に激しかったので、全地に食物がなく、エジプトの地もカナンの地もききんのために衰え果てた。
47:14 それで、ヨセフはエジプトの地とカナンの地にあったすべての銀を集めた。それは人々が買った穀物の代金であるが、ヨセフはその銀をパロの家に納めた。
47:15 エジプトの地とカナンの地に銀が尽きたとき、エジプト人がみなヨセフのところに来て言った。「私たちに食物を下さい。銀が尽きたからといって、どうして私たちがあなたさまの前に死んでよいでしょう。」

(2) 16~17節 家畜を集める

創 47:16 ヨセフは言った。「あなたがたの家畜をよこしなさい。銀が尽きたのなら、家畜と引き替えに与えよう。」
47:17 彼らがヨセフのところに家畜を引いて来たので、ヨセフは馬、羊の群れ、牛の群れ、およびろばと引き替えに、食物を彼らに与えた。こうして彼はその年、すべての家畜と引き替えた食物で彼らを切り抜けさせた。

(3) 18~26節 農地を買いとる(ただし、22、26節 祭司の土地だけはパロのものとならなかった。)

創 47:18 やがてその年も終わり、次の年、人々はまたヨセフのところに来て言った。「私たちはあなたさまに何も隠しません。私たちの銀も尽き、家畜の群れもあなたさまのものになったので、私たちのからだと農地のほかには、あなたさまの前に何も残っていません。
47:19 私たちはどうして農地といっしょにあなたさまの前で死んでよいでしょう。食物と引き替えに私たちと私たちの農地とを買い取ってください。私たちは農地といっしょにパロの奴隷となりましょう。どうか種を下さい。そうすれば私たちは生きて、死なないでしょう。そして、土地も荒れないでしょう。」
47:20 それでヨセフはエジプトの全農地を、パロのために買い取った。ききんがエジプト人にきびしかったので、彼らがみな、その畑地を売ったからである。こうしてその土地はパロのものとなった。
47:21 彼は民を、エジプトの領土の端から端まで町々に移動させた。
47:22 ただ祭司たちの土地は買い取らなかった。祭司たちにはパロからの給与があって、彼らはパロが与える給与によって生活していたので、その土地を売らなかったからである。
47:23 ヨセフは民に言った。「私は、今、あなたがたとあなたがたの土地を買い取って、パロのものとしたのだから。さあ、ここにあなたがたへの種がある。これを地に蒔かなければならない。
47:24 収穫の時になったら、その五分の一はパロに納め、五分の四はあなたがたのものとし、畑の種のため、またあなたがたの食糧のため、またあなたがたの家族の者のため、またあなたがたの幼い子どもたちの食糧としなければならない。」
47:25 すると彼らは言った。「あなたさまは私たちを生かしてくださいました。私たちは、あなたのお恵みをいただいてパロの奴隷となりましょう。」
47:26 ヨセフはエジプトの土地について、五分の一はパロのものとしなくてはならないとの一つのおきてを定めた。これは今日に及んでいる。ただし祭司の土地だけはパロのものとならなかった。

飢饉が激しくなると、ヨセフはエジプト人に穀物を売って、その銀をパロの家に納め(14節)、銀がつきると、彼らの家畜を代価として穀物を売りました(17節)。
家畜がつきると、人々は彼らの身体と田地とを交換に穀物を売ってくれるように申し出ました。そして田地はパロのものとなり、人民はパロの奴隷となったのです。そこでヨセフは収穫の五分の四を人民に与え、五分の一をパロに納める制度を立てました。これは他の国々の法律と比較しても決して苛酷なものではありません(24節)。
人々はヨセフに感謝してパロの奴隷になりました(25節)。ただし、ヨセフは祭司の土地だけは買い取りませんでした。それは彼らの反抗を引き起こさないようにとのヨセフの配慮であったものと思われます(22、26節)。しかしこれがパロ(当時の王ヒクソス)の政権を奪う原因になったのかもしれません。

とにかく、これは驚くべき政治でした。この賢い方法によって、エジプトにおけるパロの主権は見事に確立し、ヨセフは大いなる功績をつくりました。このことはエジプトの根本的改革にも相当しましたから、国の記録として記され、伝えられました。これによってヨセフの生きている間だけパロの恩寵を受けたのではなく、ヨセフの死後も、またパロの死後も、イスラエル人は尊敬され、保護されました。その期間はおよそ三百年で、ヨセフのことを知らない全く別の王朝が起きるまで続きました(出エジプト記1:8)。

出 1:8 さて、ヨセフのことを知らない新しい王がエジプトに起こった。

イスラエル人に対する圧迫は新王朝から始まります。それが出エジプトとイスラエル国家建設への胎動となるのです。

3.ヤコブの死床(ヤコブ147才、ヨセフの約束、27~31節)

創 47:27 さて、イスラエルはエジプトの国でゴシェンの地に住んだ。彼らはそこに所有地を得、多くの子を生み、非常にふえた。
47:28 ヤコブはエジプトの地で17年生きながらえたので、ヤコブの一生の年は147年であった。
47:29 イスラエルに死ぬべき日が近づいたとき、その子ヨセフを呼び寄せて言った。「もしあなたの心にかなうなら、どうかあなたの手を私のももの下に入れ、私に愛と真実を尽くしてくれ。どうか私をエジプトの地に葬らないでくれ。
47:30 私が先祖たちとともに眠りについたなら、私をエジプトから運び出して、先祖たちの墓に葬ってくれ。」するとヨセフは言った。「私はきっと、あなたの言われたとおりにいたします。」
47:31 それでイスラエルは言った。「私に誓ってくれ。」そこでヨセフは彼に誓った。イスラエルは床に寝たまま、おじぎをした。

ヨセフの功績によってイスラエル人はゴシェンの地で大いなる産業を得、その数も大いに増えました(27節)。
ヤコブはエジプトに移って17年間生きて死にました。その臨終の日の近いことを知った時、ヨセフに自分の骨をカナンの地に携えて行って葬るように約束させました。
ヨセフは喜んでこれを承諾し、誓いました。
イスラエル(ヤコブ)は床に寝たまま、おじぎをしました(31節)。この句は、ヘブル人への手紙11章21節を見ますと、ヤコブの信仰を示す大切な句であることが分かります。

ヘブル 11:21 信仰によって、ヤコブは死ぬとき、ヨセフの子どもたちをひとりひとり祝福し、また自分の杖のかしらに寄りかかって礼拝しました。

ヤコブの死がいをエジプトに葬らずに、カナンに携え帰って葬ることをヨセフが承諾した時、ヤコブは安心して神を礼拝しましたが、これはヤコブの信仰の実際的な表現であったのです。
ヤコブは、自分たちはエジプトでは旅人であり、自分の子孫の住居はエジプトではなくカナンであるから、神は必ずヤコブの子孫をエジプトより導き出し、カナンの国に帰らせると信じたのです。その信仰をヤコブはおじぎをすることによって表わしました(ヘブル11:13~16、ペテロ第一2:11)。

ヘブル 11:13 これらの人々はみな、信仰の人々として死にました。約束のものを手に入れることはありませんでしたが、はるかにそれを見て喜び迎え、地上では旅人であり寄留者であることを告白していたのです。
11:14 彼らはこのように言うことによって、自分の故郷を求めていることを示しています。
11:15 もし、出て来た故郷のことを思っていたのであれば、帰る機会はあったでしょう。
11:16 しかし、事実、彼らは、さらにすぐれた故郷、すなわち天の故郷にあこがれていたのです。それゆえ、神は彼らの神と呼ばれることを恥となさいませんでした。事実、神は彼らのために都を用意しておられました。

Ⅰペテ 2:11 愛する者たちよ。あなたがたにお勧めします。旅人であり寄留者であるあなたがたは、たましいに戦いをいどむ肉の欲を遠ざけなさい。

(以上、創世記47章、聖書箇所は【新改訳改訂第3版】を引用。)

上の写真は、ヨセフの時代(BC1900~1800年頃)のエジプトの地図。ヤコブ一族は、ナイル川デルタの東側にあるゴシェンの地に住んだとされる。(いのちのことば社刊、ニック・ペイジ著、「バイブル・ワールド、地図でめぐる聖書」より)

(1987.4.1)

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